漆黒の王女〈前編〉
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シーナが【黒い鳥みたいな機械】の所へ行きたいと言った。
僕と親方はその願いに驚いたけど、あれがシーナの物なのかどうか確かめたかったし、シーナの失われた記憶に少しでも引っ掛かるのならという思いがあった。
シーナが同行するのを家の窓から見たおかみさんが弾丸のように飛び出してきて、まるで実の娘にするみたいにアレコレ心配事を並べ立てて、親方にも「シーナを危ない目に合わせたら承知しないよ」と釘を刺した。
シーナと親方が並んでシュンとしながらおかみさんのお説教を聞いているのが面白くて、ひとり笑いを噛み殺していると、
「こらサザン! アンタもだよ。小っちゃくても男なんだから、しっかりするんだよ」
油断してた僕にもとばっちりが飛んで、はぁいと小さく返事をした(苦笑)
「行くぞ」
気を取り直して親方が号令を掛けると、僕達は森の奥へと入っていった。
親方、シーナ、僕という順で列を成す。
僕の目の前のシーナは、実は親方とあまり背丈が変わらない、女の人にしては長身だった。僕の頭のてっぺんがシーナの肩に届くか届かないか。
だから初めて見た時は、髪も短いし男の人だと思ったのは内緒。
そんなシーナの後ろ姿を見ながら…シーナの纏っている深緑のローブがこの森にうまく紛れているなぁと思った。
まるでシーナが、ふっと消えてしまったような…
「?…
サザン? どうかした?」
シーナが振り返り、不思議そうな顔をする。
無意識に僕はローブごとシーナの腕を掴んでいた。
「あ、いや…シーナ疲れてない? 大丈夫?」
「平気。もう元気だから。サザンもう心配しないでいいよ」
数日前にうなされて苦しんでいた人物と同じとは思えないほど、今のシーナははつらつとしていた。
…