漆黒の王女〈前編〉

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 どれくらい眠ったのか、きっとそんなには経ってない、またいい匂いが鼻をかすめて私は目が覚めた。

 外はすっかり真っ暗になって、部屋の明かりが煌々と灯っていた。

「あっシーナ起きた。
 おなか空いてる? おかみさんが作っていってくれたごはん、食べれそう?」

 部屋の入口からサザンがひょいと顔を出した。

 寝る前に食べた野菜スープの味を思い出して、きゅう、と小さくおなかを鳴らした。

「うん、食べたい…っ痛」

 ベッドから降りようとしたら、一本筋の通ったような痛みが頭のてっぺんからつま先まで走って、ベッドの上でうずくまってしまった。

「わ、大丈夫シーナ? いいから、ここで食べよう? 僕持ってくるから」

 そう言ってサザンは、ヘッドボードにクッションを置いて私を寄り掛からせて、サイドテーブルを出して部屋を出た。

 ちっちゃいサザンに迷惑ばかり掛けてるな…思うように動かない自分の身体が恨めしい。

「えへへ、僕もお相伴」

 サザンは二人分の食事を持って戻ってきた。

「シーナ、おかみさんのごはん気に入った? 美味しいよねぇ」

「うん」

 サザンがテーブルに次々と料理のお皿を並べるのをじっと眺める。

 今度はこんがり焼けたチキンとサラダ、スライスされた二切れのパン。

 いただきます、と声を合わせて私達は食べ始めた。

 食べながらサザンは色んな話をしてくれた…

 サザンの両親はもう随分前に亡くなっていて、オーリィさん夫婦の助けを借りながら、お姉さんと二人で暮らしていた事。

 お姉さんは1年前に遠いお城へ住み込みでお務めに出て、それからずっと帰ってない、でも月に一度の手紙のやりとりを欠かしていない事。

 その間、オーリィさんに教わって猟師の見習いをして、まだ銃は使わせて貰えないけどボウガンの腕はなかなかな事。

 そして意外だった、サザンが12歳だという事。

「あっそうなんだ、てっきりもう少し下かと…」

「あっひどっ。シーナまで? 親方もおんなじ事言うしさぁ、やんなっちゃうなぁ」

 プリプリとむくれるサザンが可愛くて、自然と口元が緩む。

 私も色々聞かせてやれればいいのに、自分の事を何一つ分かっていない。歳も分からない。

「シーナはねぇ、多分ねえさんと同じくらいじゃないかなぁ。ねえさんはもうすぐハタチになるよ」

 人間20年といったらずいぶん大人のように思うのに、サザンからしたら私はそんな風に見えるのか。

 ふと窓に映った自分を見る…

 黒い髪と黒い瞳がそうさせているのかなと思うと共に、

 何故自分はこんなに黒が主張しているんだろう…

 少し、恐れみたいなものを感じた。





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