漆黒の王女〈前編〉

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「シーナ。アンタそんな状態だし、本当はうちで面倒を見てやりたいんだけれど。
 あいにくうちは手狭で寝床を作ってやれないんだ。
 アンタとサザンがよければ、何か思い出せるまでこの家に居るといい」

 クロエさんがそう言うと、サザンも勢いよく頷いて、

「そうしなよシーナ、ねえさんの部屋使って。服も、ねえさんが置いてってるの使っていいから」

 と笑顔で言った。

「でも」

 本当にいいのかな? お姉さん、知らない人に色々使われるのを気持ち悪く思わないだろうか。

 そんな私の気持ちを察したのか、

「シーナ大丈夫だから、困ってる人を放っとくようなねえさんじゃないから。僕、早速ねえさんに手紙書く!」

 妙に張り切って言って、サザンはお姉さんの机の席に着いて、自由に机にある物を使って手紙を書き出した。

「おいおいサザン、次の集配人が来るのは3日後だぞ?」

「あっそうか。でもいいや、書いちゃう」

 オーリィさんの指摘に怯まずおどけるサザンが可笑しくて、私はクックッと笑った。

「さぁさ、とにかくシーナが目覚めてよかった。
 もう暗くなるから、アタシらは家に帰るよ。
 サザン、晩ごはんの分も作ってあるから。シーナもまた食べれそうなら食べな。
 体はまだ痛むかい? 無理に動こうとしないで、辛かったらすぐに横になるんだよ。
 じゃあまた明日、来るからね」

 クロエさんがひとしきり喋ると、オーリィさんと一緒に部屋を出ようとしたので、

「あの、色々ありがとうございました、オーリィさん。クロエさん」

 ベッドの上からペコリと頭を下げた。

 すると、オーリィさんがふっと笑って、

「俺達の事は親方、おかみって呼んでくれ。
 サザン、あとは頼んだぞ」

「はぁい」

 サザンの返事を聞いて、片手を上げながら部屋を後にした。

 窓からふたりが歩いていくのが見えて、私はそれをぼんやり眺めた。

 カリカリとサザンが手紙を書く音が心地いい。

「シーナ? 痛いんでしょ? 横になっててよ」

 サザンがこちらを振り向かないまま言った。

 確かに身体中に鈍い痛みが残っている。サザンの言葉に甘えて、私はゆっくり身体を横たえた。

 カリカリカリ。

 サザンの筆を走らせる音は止まない。

 何をそんなに沢山書いてるんだろう…

 サザンの背中を見つめている内にうつらうつらし出して、私はいつの間にかまた眠りに落ちてしまった。





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