漆黒の王女〈前編〉
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縮尺の小さい大雑把な地図で見ると、まず中心に森がある。
その中の東側は全くの未開拓地で(親方が足を運んでいない)、森がどこまで続いているのかも分かっていない。
西へは森を抜けられて、少し行くと大きな街、更に行くと海がある。
僕達の村は森の西側の少し奥まった所に切り拓かれて存在する、10にも満たない世帯数の本当に小さな所。
村に入ってすぐに、偶然親方の奥さん(僕はおかみさんと呼んでいる)が歩いていたので、
「オイちょうどよかった、サザンの家までついてきてくれ」
と親方が声を掛けて、家に着くまでの道すがら事情を話した。
おかみさんは全て話を聞き、
「わかったわ。
サザン、家にロッキングチェアはあるかい? ベットを汚すわけにはいかないから、まずそれに寝かせて身体を拭いて着替えさせてやろうね。
それから桶に水、タオルを沢山と、姉さんの服を何かひとつ貸しとくれ」
家に入るなりそう指示をした。
ロッキングチェアは父さんと母さんが使っていた部屋にそのまま置いてあったので、僕はそれをねえさんの部屋へ運んだ。
親方とおかみさんとで黒髪の人をロッキングチェアに横たえさせている間に、僕はおかみさんに言われた通りの物を全て用意した。
「さあここからはアタシひとりでやるから、男は外に出てな。
終わったら呼ぶから、そしたらベッドに運んでおくれ」
そう言って、おかみさんは僕と親方を部屋から追い出した。
「何者なんだろうかな、あのおじょうちゃんは。
今まで生きてきて、あんな髪色にはお目にかかった事がねぇ。
どこか遠くから、海でも越えてきたか。世の中まだまだ知らねぇ事があるな、なぁ、サザン」
ダイニングで僕が出したお茶をすすりながら、親方は言った。
あの人が目を覚ましたら、沢山聞きたいことがある。
あなたはどこから来たの?
どうして森で倒れていたの?
あの黒い鳥みたいな機械はあなたのなの?
ぼんやりと頭の中で並べ立てていると、おかみさんが血相を変えて僕達の所に駆け込んできた。
「ちょっと…あの子熱が高過ぎるようだよ。呼吸が苦しそうだ。
ともかく、早くベッドに寝かせてやらないと」
…