漆黒の王女〈前編〉
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親方が行ってしまって、辺りがしんと静まり返る。聞こえるのは草をサーッと撫でる風の音だけ。
僕は自分のカバンを枕代わりに、黒髪の人を仰向けに寝かせて、ボウガンとロープを手に持ったまま、木に引っ掛かっている物体に再び近づいた。
これは黒髪の人の物なんだろうか?
多分、この辺りに獣がいないのは、この得体の知れない機械を恐れてうろつけないのじゃないか…
「……
ウッ…」
「!」
黒髪の人がほんの少し呻いて、僕はハッと振り返った。
僕は彼女のそばに両膝をついて、彼女の動きを見守った。
彼女は…うっすらと目を開けた。
ああ、この人は瞳も黒なんだ。
僕が世の中を知らないだけかもしれないけれど、髪と瞳の色が同じという人間はいないもんだと思っていた。少なくとも僕の周りはそう。
僕は銀色が混じったブロンドの髪に、家系の色である若葉色の瞳。親方は濃い茶色の硬そうな髪に、くすんだ青い瞳。
「……」
黒髪の人は何も言わない。僕の顔をぼんやりと見つめていた。もしかしたら目が霞んでいるのかもしれない。
「あの、大丈夫…? お水、飲める…?」
僕は親方の水筒を取り出して、飲み口を彼女の口元へ持っていった。
「……」
黒髪の人は僅かに頷いて、一口、ごくりと喉を潤した。
そしてまた目を閉じて、眠りに入っていった。
ターバンで巻かれていたのに顔が泥だらけだったので、僕は自分の手ぬぐいを水筒の水で濡らして拭いてやった。
汚れの下は白い肌。黒髪だから尚更白が際立つ。ねえさんも白い方だったけど、彼女のはそれ以上に思えた。
やがて、親方がロープを辿って戻ってきた。
「サザン、俺の銃を預かれ。発砲するんじゃねぇぞ」
親方は僕に銃を渡すと、小屋から持ってきたらしい毛布で黒髪の人を包んで、お腹から持ち上げて肩に担いだ。
僕はボウガンと親方の銃と、黒髪の人が纏っていたぐしょ濡れのローブとターバンをひとまとめに丸めて両脇に抱えた。
「お前の家に着いたら、うちのカミさんに来て貰うからな。女の世話は女に任せるのがいい」
「ハイ。
親方、この人ちょっぴりだけ目を覚ましたよ。水をちょっと飲んで、またすぐ寝ちゃった」
「そうか。他に変わった事はないか」
「ハイ」
そんな会話をしながら、僕と親方は森の中を歩き、僕達が住んでいる森の中の小さな村に帰った。
…