漆黒の王女〈前編〉

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 ここ数日、雨ばかり降って嫌になる。

 雨粒に打ちつけられている窓の外側をぼんやり眺めていた。

「おらサザン、溜め息ばかりしてねぇで、道具の手入れをしろ」

「はぁい、親方」

 数日分の獣肉を狩りに森に入ったはいいけど、雨のせいでずっと小屋で足止めを食らっていた。

 渋々と自分のボウガンや矢を手入れする僕を見ながら、僕の猟の師匠であるひげもじゃのオーリィ親方はクククと笑いながら言った。

「姉ちゃんもお務め頑張ってんだろ? いつ帰るんだったか?
 次帰って来るまで、猟の腕をうんと上げてやるって息巻いてたのはどこのどいつだ」

「はい、僕です、僕ですとも。
 ねえさんはあとふた月くらいしたら帰りますよ。もうすぐ20歳の誕生日だから」

「ガハハ。ま、その時にお祝いのご馳走作れるくらいの材料を仕留められる腕になってないとな。
 サザン、10を過ぎたばかりの子供なのに、お前の獣の臭いを嗅ぎ分けられる才能はたいしたもんだが…
 お天道様が泣いてちゃ、おとなしくしてるしかないわな。
 心配すんな、雨はもうすぐ止むさ」

 親方の語弊に苦笑する。僕、12歳ですけど。そんな頼りなく見えるかなぁ。

 ねえさんがとあるお城に仕えるようになってもうすぐ1年、父さんも母さんもいない僕は、ずいぶんひとりで頑張ってたくましくなったと思うんだけど。

 そういえば月一で来るねえさんの手紙、まだ来てないな。まあ、その内来るだろう。最後に来た手紙で、誕生日に合わせてお暇頂けるようお願いしてみると書かれてあった。

 そんな事を考えている間に、親方の言う通り、雨が少しずつ弱くなって窓の外が明るくなってきた。

 よかった。僕、ほんとに雨が苦手。気圧で体が重くなるし、雨上がりの匂いもあんまり好きじゃない。





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