漆黒の王女〈前編〉
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「な…に」
それ以上言葉を紡げなかった。
漆黒の血筋を絶やそうとする者がいるというの?
ザザは一瞬間眉間にしわを寄せながら目を臥せると、バッと私から離れて、壁の小さな隠し扉を開けた。
そこにはハンドル、ザザが反対回りに回すと、天井に切れ目が出来て人ひとり分パックリと開いた。更に回すと、折り畳まれたはしごが頭上のすぐそこまで下りてきた。
ザザは手を伸ばしてはしごを床に着けさせると、すぐさま上へ登る、私にも来るように目配せをした。
屋根裏に頭を入れた所でぶわっと風に吹かれて、巻かれたターバンが緩んで飛ばされそうになるのを手で押さえた。
そこは屋根裏というより、塔のてっぺんで外、普段は幌で上を覆っているらしかった。ザザが今その幌をハンドル操作で畳んでいる。
グライダーが一機、四方をロープで繋がれて置いてあった。
呆然とそれを見つめる私の手をザザは引っ張って、グローブをはめさせた後グライダーのバーを握らせた。
「お願いよシーナ、これで遠くへ、出来る限り遠くへお逃げなさい。
城主様もそれを願っておられる、ここは城主様の昔の秘密の場所だったんですって」
命綱のベルトを腰に巻き付けながらザザが淡々と言う。
「ねえザザ。ザザも一緒に来てくれるんじゃないの?」
そう、ザザの口振りはまるで私ひとりの旅立ちのよう、私は不安げに瞳を揺らしてザザに問う。
ザザは…静かに首を横に振って、言った。
「私は…城主様のお傍にいなければ。
あなたを無事に逃がした事を…伝えなければ」
…