漆黒の王女〈前編〉

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 私は薄暗がりに溶け込んでいる声の主に呼びかける。

「ザザ」

 入ってきたのは私の侍女のザザ、一番信頼の出来るお世話役であり、心からの友人。

 よっぽど必死で駆け上がってきたんだろう、綺麗なブロンドの髪のザザは汗で前髪がぺったりくっついて、はあはあと肩で息をしていた。

 両手に色々な物を抱えて、それらを傍のテーブルの上に置く動作から流れるように私の前に立って、私の両肩に両手を置いた。

「ザザ? ねえ、どういうことなの? 今、一体何が起きているの? パパは?」

「後で説明します」

 私の矢継ぎ早の質問をザザは遮った。

「まずは…こちらの服にお着替えになって。私の…お城に入る前に着ていた物で申し訳ありません。
 その上からこのローブを…この色合いなら闇に紛れます。
 装束は私が預かります。あなたがこの城の血族の者と、誰にも知られてはいけない…」

 ザザの手によって私は身ぐるみを剥がされ、用意された、とても上等とは言えない生地のワンピース、底のしっかりしている毛皮のブーツ、深緑の大きなローブを身に纏う。

 ローブの襟ぐりから顔を出した時、ザザにうなじから手を入れられて腰まである長い後ろ髪を外へ出された。

 わずかな光をも受け止める、絹のようにしっとりとしたこの黒髪は、城主の血族である証。太古の頃から受け継がれているもののひとつだ。

 パパが神々しいほどの黒髪の持ち主、ママは他所から来たから違うのだけど、私はパパの細胞をしっかりと受け継いで生まれた。

 その黒髪を、ザザが私の後ろでひとまとめに手に優しく乗せる…その直後、シャッと何か金属同士が擦れる音が飛んだ。

「髪も切った方がいいわ、逃げてゆくのに邪魔だから」

 ザザがそう言い終わる前に、私の首にヒヤリとした物が当てられ、ジャキッという大袈裟な音が響いた。





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