夜間飛行

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「失くすと困るから付けちゃおう」

「あれサザン、ピアスホール開けてたっけ?」

 言ってなかったっけ、と笑いながらサザンは姉のピアスを左耳にめた。

 緋色あけいろに輝くそれはサザンの銀髪によく映え、一点の星の様。

「お守りにするよ。
 シーナと…姉さんの…ぬくもりがここにあるのなら、あの星が見つからなくたって平気だよね」

 耳朶みみたぶと一緒に指でピアスを挟むサザンを、懐かしい思いで見つめた。その仕草、ザザもよくやっていた。



 しばらくして、「さあ、そろそろ戻ろうか」サザンは満天の星々に向かって再び伸びをして、帰り支度を始めた。

「ちょっと風が出てきたね、シーナちゃんと毛布使ってよ?」

「はいはい」

 気球の幌が熱気を孕んで、ゴンドラが地面から離れた。

 気流に逆らって進むので、城に着くのは行きの時より時間が掛かりそうだ。

「シーナ、眠かったら寝てよね、着いたら起こすから」

「はいはい」

 そう返事をしたが、私は眠りそうにない。

 この夜間飛行を城に着くギリギリまで堪能していたいし、この子もまだおなかの中ではしゃいだままだ。

 遠ざかっていく十字の星並びに、さよならを心の中で告げて、私はゆっくりと流れる星の景色を、サザンの背中に自分の背中を預けながらぼんやりと眺めるのだった。










夜間飛行〈完〉





[執筆期間]
2021年4月21日~5月28日

[ストーリーBGM]
グライダー / 大久保伸隆
女神 / ゆず






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