夜間飛行

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「あっはっは。でも、多分ね、この子なりにいってらっしゃいをしたんだと思うよ。
 …あっそうだ、私もサザンに」

 言いながら私は、片耳にしているザザの形見のピアスをサッと外して、サザンの手のひらにコロンと乗せた。

「えっ、シーナ、これ」

 サザンはビックリしながらピアスと私を交互に見る。

 ピアスが手のひらから溢れていきそうだったので、自分の中の手を重ねてサザンの手のふちをぎゅっと握った。

 無意識の行動だったが、次の言葉を発するには、旅立つサザンにより伝えるには、丁度良かったかもしれない。

「これは貸すだけ。
 サザンが向こうでも元気に無事に過ごせます様に。
 何もかも済んだら、必ず私に、漆黒城に返しに来るんだよ。
 もし、もしも、サザンの中に、変わってしまう不安があるのなら。
 私は、私達はずっと変わらない。だから安心して…帰ってくるんだよ」

 抽象的な言い回しをしてしまっただろうか、でも、サザンならきっと分かってくれるだろう。

 私は危惧してしまったのだ、サザンが私達家族に対して要らない遠慮をしようとしているのではと。

 私がこうしていられるのは、何もかもサザンと出逢えたおかげだという事を、どうしても伝えたかった。

「シーナ…うん、わかったよ」

 サザンは長いこと黙っていたけれど、私の手の下でピアスを大事そうに握りしめてそう言った。

 この時に、夜間飛行を始めてから終始強張ったままだったサザンの空気がやっと、けたと感じた。





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