12月24日の灯り

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 私が本当に欲しい物、だって? あいつに私の何が解るって言うんだ。

 あの奇天烈な格好と憐れみを帯びたような表情カオの男に悪態をいたところで、この【誓約書】から答えが返る訳でもない。

「──あら、やっぱり起きないのね。もうこのまま朝まで寝かしとこう」

 お風呂から上がった母親の声に、ひっと飛び上がりそうになった。慌てて【誓約書】を再度ズボンのポケットにグシャグシャにしまいこむ。

 変に思われたか心配だったが、母親はまず真っ直ぐに冷蔵庫に向かって水を飲んだので、私の様子には全く気付いていなかった。

 母親が戻ったから自分の役目はおしまいだ、妹を抱き上げに向かった母親と入れ違いで自分の部屋へ行こうとすると、

「電気消しておいて頂戴、かあさん手が塞がってるから」

 妹の背中を優しく叩きながら小声で早口に言い、さっさとリビングを出ていった。

 ひとり残されたリビングの空気と、淀んだ私の心の奥底…

 冷たさが全く、一緒だった。





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