12月24日の灯り
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そこにはとある芸術家の老人が独りで住んでいて、この聖なる夜にも自分の仕事に励んでいた。
部屋の電気も点けないで、月明かりの光だけで黙々と作業をしていた彼は、ふと僕達の気配に気が付いて、次第に目を見開いた。
「おぉ…おぉ…!
その真っ赤なネックウォーマーは…!
まさか、お前さんは。
わたしが思い描いた聖夜の使者…!」
驚きでわずかに体を震えさせ、でもこちらには寄ってこない老人を、僕はにやりと笑って、
「そうさ」
でもなるべく素っ気なく答えた。この態度はこの老人には痛快であった、まさに自分が思い描いたそのものだったから。
人の数だけ使者がいる。
僕は、僕達は。誰かしらの心象から生まれた使者なんだ。
「生きてる内に自分の眼で拝めるとは思わなんだ…世の中は不思議な事だらけだなぁ」
「そうさ」
そんな風に思っているもんだから、僕達がどうやってこの鍵の掛かった部屋に入り込めたかなんて気にも留めない。
「贈り物を下界人に任せっきりの、見守りだけの賢い使者」
「そうさ」
彼のその言葉に奥さんがいきり立つ気配を感じたけど、僕が制した。そんな事は別に問題ではないのだから。
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