12月24日の灯り

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 若者は司祭様を見上げた。

「いや、おあいこですよ。僕もあの人に祈りを貰ったから」

 厚い前髪で隠れているから表情は分からないが、口角が上がっていたので彼もまた穏やかな顔でいるのだろう。

「あなたは、灯火を見ていかれないのですか」

 若者が立ち上がって外に出ようとするのを、司祭様はふいに止めた。

 若者は肩越しに司祭様を見て、

「僕のは大丈夫でしょう。けれど、もし、小さく消えてしまいそうになっていたらその時は、司祭様が新しく継ぎ足して下さいな」

 なんて、冗談ですよ冗談、と付け加えた後にパチンと指を鳴らすと、司祭様のまばたきの瞬間に姿をくらました。

「──お気をつけて」

 どこまで本気だったのか、司祭様は計り知れなかったが、若者がいなくなった空間にそう言葉を投げて、再びもみの木のたもとへ歩み寄った。

「悩める使者はもう、今年は来ないでしょうか。
 この聖夜が全ての人々にとって、実りのあるものとなることを願いたもう──」

 煌々と燃える使者の心の灯火たちを、司祭様は優しいとも哀れともいえない眼差しで見つめ、再度胸の前で十字を切るのだった。










教会に集う者〈完〉



[執筆期間]
2020年12月24日~31日






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