レンズの向こう側
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やがて車は有料道路に乗って、ぐんぐんと加速した。
流れる景色は次第に山が増え雪化粧になっていく…あたし達が向かうのは、とあるゲレンデ。
雪国育ちのあたしはスキーが大好きで、大学時代は仲間とそこへよく滑りに通っていた。
そこは宿泊もオッケーで、コテージをまるまる一棟借りて、何泊もした事もあった。
その話を…冬に入りかけの頃にノブキとしてて、いつか二人で行きたいねと言っていた。
同じ時期に神さんから転居のハガキが来て、住所を見るとなんと、そのゲレンデから車で1時間もかからず行ける所だった。
そんな経緯があって今日実行された、あたしとノブキの二人旅。
神さん家ですっかりのんびりしてしまった、ゲレンデに着くのは陽が落ちてからになりそうだ。
途中のサービスエリアに寄って休憩を取るついでに、泊まるコテージには食べ物は何もないから、今夜の分のお弁当や飲み物も買い込んだ。
「買い忘れはないかな…よしっ、じゃあ車に戻ろ」
「せーちゃん」
車の方へ歩き出そうとするあたしの袖を引っ張って、誰も通らない建屋の陰に誘うノブキ。
「なに」
「ゲレンデまで、あとどれくらい?」
「えーっと…多分30分くらい? もう少しかかるかな」
「じゃあ」
ナニがじゃあ、だ? と言う前に、またノブキに唇を塞がれた。
今度は長いキス、あたしの頬を両手で挟みながら、ノブキはあたしの唇を上下と順番に吸っていく。
茶淵眼鏡の奥の、閉じられたノブキの目を見る。まつ毛が長いな…と思いながら、柔らかい感触に段々と頭がボーッとしてくる。
どちらからともなく唇が離れると、あたしはノブキの手を使ってパンッと自分の頬を叩いた。
「なに」
「事故ったらノブキのせいにしてやる!」
ドキドキをごまかしたくて、ノブキにそう言い捨てて車の方へ早歩きした。
待ってよ、と笑いながら追いかけてくるノブキに、前を向いたまま手を後ろへ差し出すと、ノブキの大きな手がふわりと包んだ。
付き合い始めてからここまで…ノブキはあたしに沢山のキスをくれた。
くれてるけど。
ノブキはまだあたしを抱かない。
…