レンズの向こう側

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 神さんの住む町を抜けようという所まで来て、とある信号で捕まってる時に、助手席のノブキが窓の外に目をやりながら言った。

「久しぶりに顔見て…ザワザワした?」

 ん? 神さんのこと?

 あたしも前に視線を投げたまま言った。

「ハッハッ。そりゃあ好きな人だったけどさ。あれから何年経ったと思ってるの。
 また家族で暮らせる事になって…本当によかったよ」

「…ん」

 ノブキは外を向いたまま、ハンドルを握っていない宙ぶらりんのあたしの左手を、キュッと握った。

「せーちゃんはさっぱりきっぱりな人だから、そうなのかもしれないけど。
 俺は…分かってても…やっぱりモヤッとしちゃう」

 ノブキの言葉に、あたしはやっとノブキの方を見た。

 ノブキはちょっと口を尖らせて、身体を外側に寄せてうなだれていた。

 ナニナニ、もしかしてヤキモチ妬いてるの?

「そんなつもりは微塵もないんだけどな…コバッキー気にし過ぎ」

「ほらーあ、またー」

 コバッキー呼びにまたふてくされるノブキ(笑)

「ウソウソ。
 …ごめん、ゆるして。
 ノーブーキ」

 もうコバッキー呼びは勘弁してあげよ。

 少し囁くように名前で呼んであげると、ノブキは顔を上げて、あたしを見つめたと思ったら、覆い被さるようにあたしの唇を塞いだ。

 ほんの一瞬の出来事、でもノブキの熱くて柔らかい唇は、そんなわずかな時間でさえ、あたしの脳に強烈に刻み込む。

「──なっ、ちょっと」

「ほらほら、信号青になったよ。行って行って」

「こんにゃろ~」

 サッと助手席に収まるノブキに悪態をつきながら、内心はめっちゃドキドキさせられた、でも平然を装ってあたしは車を発進させた。

 ノブキは時々こういう大胆なコトをする、小悪魔め。

 自分がやったんだから、直後でそんな真っ赤な顔しないでよね(笑)





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