ボーダーライン〈後編〉

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 大人になると、時間が過ぎるのって本当に早い。



 大学を無事卒業して、僕も晴れて社会人になった。

 本に関わる仕事に就きたかった僕は、最終的に印刷会社に就職した。

 書籍の製本はもちろん、カタログやポスターなんかもクライアントと綿密に打ち合わせて作りあげていくのだ。

 ペーペーの僕は上司や先輩達の指導を受けながら仕事を覚えるのに必死、でもやりがいがあってとても充実していた。



 就職した後で知ったんだけど、せーちゃんが勤めている会社がクライアントのひとつで、せーちゃんは培った英語力を生かして、通訳の仕事をしている。海外の出版物を和訳したりするんだ。

 忙しくしてる割りには、僕とは結構逢っていた。

 僕がまだ大学に在籍している間も、時々ふらっと図書センターに顔を出したりしていた。

「ねぇねぇコバッキー。
 何人かフリーの男子集められないかね?
 誰か紹介してって、同僚がうるさいんだわ(苦笑)」

 そう言われて、一体何度合コンをセッティングしたことか。

 僕が社会人になってからもそれは続いていて、先日もまた、忙しい合間を縫って開催したところだ。

【こないだはお疲れさん。
 今夜ヒマ?
 反省会やろーよ】

 せーちゃんの、相変わらず短いメッセージ。

 反省会なんて言ってるけど、主催側で気を遣いまくった僕達へのささやかなご褒美。

 美味しいごはんとお酒で、二人でくだけた雰囲気で過ごすのが恒例となっていた。

【りょーかい。○○駅に19時でいい?】

【はいよ。んじゃ、またあとで】

 やりとりを終えて、ふう、と息をついた。



 せーちゃんは…知らないんだろうな。

 いつの頃からか…



 僕がせーちゃんを意識している事に。





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