ボーダーライン〈前編〉
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家に着いて、書き写した求人リストを眺めた。
「信暉、ごはんの前にさっさとお風呂に入っちゃいなさい。
あらナニ、バイトするの? じゃあ家からのお小遣いはもう、卒業って事でいいわね? 助かるわー。
ほら早く入って、冷めるわよ」
ダイニングテーブルで見ていたので、夕飯の支度であちこちをパタパタ行き交う母親が、僕の後ろからそう言い放った。
「あぁ」とだけ言い、またリストに目をやる。
あの【紡木】さんに逢えそうな求人先を、無意識に探している。
国2、国文学部の2年生。浪人していなければ、僕と同い年のはず。
清楚そうで、垢抜けていないっぽい、静かに微笑む彼女が、いつの間にか僕の中を占領してしまっていた。
少しばかり親切にされたからって、我ながら単純。
「…あ、これいいな」
図書センターの業務。大学内の本屋へ教科書を、図書館に資料を運んだりするみたいだ。
土日挟むから、月曜日事務局に行って話を聞いてこよう。
まだ決まってもいないのに、ボーダーのシャツのあの人にまた逢えるかもしれないとウキウキして、
ただそれだけで、1時間半の通学なんてちっとも苦に思えなくなるんだから呆れる。
月曜日が待ち遠しくて、土日はソワソワしながら過ごした。
次彼女に逢えたら、改めてお礼を言おうと思った。
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