ボーダーライン〈後編〉

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 それからの僕は。

 登山サークルを正式に退会して、紡木さんとも松堂さんとも繋がりを絶った。

 不思議なもので、それ以降大学内で彼らとすれ違う事はなかった。

 せーちゃんともまた、学年が上がると同時に顔を合わす事が滅多になかった。

 内定を貰い、卒論の準備、語学留学、色々忙しそうだった。

 でもメッセージのやりとりは時々していたから、せーちゃんが元気なのは分かっていて、それだけで十分だった。

 2年生になってから、本格的にリーダーとして図書センターのバイトをこなす僕。

 もちろん僕の上には神保さんの代わりに入った社員の人がいたけれど、彼はあくまで僕が学業を終えるまでのヘルプだった。

 城田くん以外にも何人か新しい子が入ってきていて、しっかり教え込めば大丈夫だろうという判断だったみたい。

 コンビニとかで言えばアルバイト店長といったところか。神保さんがいた頃に比べたら、給料が跳ね上がって目玉が飛び出そうだった。

 学業と掛け持ち、たしかに大変ではあったけれど、神保さんが去る前に沢山手ほどきしていってくれたおかげで、立ち振舞いと度胸は人並み以上についたんじゃないかと思う。

 恋愛とは無縁だった、でも、そんなのは気にしないほど充実していた。友達と仲間と、楽しい毎日を過ごした。





 そうしてまたたく間に、2年生の1年間が過ぎようとしていた。

 春がもうすぐそこまで迫っていた、ある日。



【コバッキー、本当に会場に来んの? 来たってつまんないと思うんだけど】



 せーちゃんから短いメッセージ。

 僕はこれを、花屋である物を買っている時に受信した。

 今日は大学の卒業式。せーちゃんが卒業するのだ。



【もちろん。せーちゃんの門出をしっかり見届けないとね】



 そう打ち返して、大学の入学式の時に着ていったスーツにまた袖を通した僕は、地元の駅から電車に乗り込んで、大学の近くにある大きな市民ホールへと向かった。

 せーちゃんには、直接おめでとうを言いたかったんだ。





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