ボーダーライン〈後編〉
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(★)
「神さん…が、言ったんだよ。
せーちゃんは、俺みたいなおじさん追っかけたらダメだ、
バツなんかついてる俺はダメだよ、って。
せーちゃんはまだまだ若いから、
これから色んな人と出逢うから、
その中で素敵な人を見つけるんだよ、って。
そんなの…分かんないし、
神さん以上の人なんていると思えない、
神さんがいい…って、
あたし、困った事言っちゃったよ。
そしたらさ、神さん、
俺はせーちゃんを、娘みたいに…
いや、娘が大きくなったらこんな感じなのかなって思って接してきたから、
せーちゃんの前では誠実でいたいし、
せーちゃんにも、誠実であってほしい…
せーちゃんが神さん神さんって慕ってくれた事は、
それで元気貰ってたから、ずっと忘れない、って。
いつかせーちゃんにピッタリのいい人が現れた時は、
いつでも報告待ってるからな…って…」
せーちゃんは僕の目を見ながら、僕の涙が顔にかかるのもお構いなしに、掴む手に力を込めながら話を続けた。
「ノブキは…さ。
そんな神さんにずっとついてきたでしょ?
神さん言ってたよ、木庭くんは本当に真面目で気が利いて優しい子だなって。
入学当初から少しずつ垢抜けてきて、それでも、そこは変わらないからいい子だなって。
ノブキは、
せめて、あたしと、神さんには、
誠実でいなきゃダメだ…」
「せー…ちゃん…」
せーちゃんのショーツに触れようとしていた手を…ゆっくり引っ込めた。
せーちゃんの話と…強い眼差しと…こんな事をされたのに最後までせーちゃんが喘ぎ声を出さなかった事が、
僕の暴走を止めた…
「…ホラ、やめられた。
やめられたね…エライ」
せーちゃんにぐちゃぐちゃに頭を撫でられた。
せーちゃんの顔に、いっぱいの僕の涙と、たった今せーちゃん自身が流した涙。
せーちゃんの乱れた服をきちんと直して、ポケットからハンドタオルを出してせーちゃんの顔をきれいに拭いた。
「ありがと。
ほら、いつまでも跨がってないで。
そっち行きなー」
「あ、わ、ゴメン」
せーちゃんに言われて慌てて助手席に収まる僕を見て、せーちゃんはくっくっと肩を揺らして、
「ばかだね、ノブキは。
さ、帰ろ」
シートを直してベルトを締めて、ゆっくり車を発進させた。
帰りの間、僕達は無言で、深夜のラジオがずっと流れてた。
ただひと言、
「せーちゃん…ゴメン。
せーちゃん…ありがと…」
と言って、ずっとそのままだった、涙で濡れた目元を手の甲で拭った。
せーちゃんは何も返事をしなかったが、運転をしながらふっと微笑んだのが、見なくても分かった。
せーちゃんとの事があってから、僕の、行き場のなかった想いが、憑き物が落ちたようにすっかり無くなった。
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