ボーダーライン〈後編〉
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(★)
「…んな…
なに? コレ…」
せーちゃんのくぐもった声。
せーちゃんの唇に触れたかと思ったのに、僕の口には、せーちゃんが咄嗟に降ろした組み手が宛てがわれていた。
「コバッキー、酔ってんの?
なわけないか、でも、酔っぱらいのする事だし。
このあたしに対して、いい度胸だね」
そういえばせーちゃん、居酒屋でバイトしてた事あるって言ってたっけ。
僕の突然の行動を、慌てるでもなく、怒るでもなく、冷静に受け流していた。
「ほら、そっち戻んなさいって…
あたしは全部話したんだから…
次はコバッキーの話の番でしょ…っ」
ほらまた、悲しそうに瞳を揺らす。
「…だからっ…
…せーちゃん、俺、もうサイテー…」
僕の中でプツンと何かが切れた気がした。
せーちゃんの組み手を頭の上で固めて、せーちゃんの首筋に思いきり吸いついた。
「っ!!…」
せーちゃんはびくんと身体を震わせた。
たいていの女の子はこれでノックアウトだけど、せーちゃんはまだ抵抗の意志があって、がちゃがちゃと押さえられた両手を動かす。
「せーちゃん、俺、ぐっちゃぐちゃなの。
なっちゃんと松堂さん、付き合ってるのに、
松堂さんが全然なっちゃんを大事にしない…
俺、なっちゃんを慰めてた。
カラダを…慰めてた…」
せーちゃんが息を呑んだ。
僕を真っ直ぐに見つめていたけど、僕はせーちゃんの目を見れない。
僕の言葉と共に、僕の行動がエスカレートする。
「松堂さん、なっちゃんがいるのに、他の女に手を出してた…
なっちゃんも…松堂さんと…俺以外にも…男と…
俺、ワケわかんなくなっちゃって…
成人式で…たまたま元カノに会っちゃって…
…もう好きじゃないのに、抱いちゃったんだよ…
そこから…もう…
…色んな子を抱いてきた…
…全部、なっちゃんに重ねてたんだよ…」
そこまで言い終えた時には、僕はせーちゃんの腰に跨がって、せーちゃんのシャツのボタンを全部外して、せーちゃんの胸の谷間に唇を這わせていた。
とっくに手を外されていたせーちゃんは、僕の頭と肩を向こうへ押しやって、脱出を諦めていなかった。
僕にブラジャー越しに胸を弄られても、声を出さなかったし、
まだ、強い眼差しで僕を見ていた。
…