ボーダーライン〈後編〉

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 僕は勢いよく上半身を起こした。

「え……え?
 言…った…の?」

「…ふっ。
 なんだ? その間の取り方は(笑)」

 僕のうろたえっぷりに、せーちゃんは小さく吹き出した。

 そして、あーあ、と言いながら、枕にしていた組み手を自分のこめかみに置いて、話を続けた。

「あたしさぁ…1年の時からずっと神さんに世話になっててさ…
 最初は、気さくで話しやすいおじちゃんだな~なんて思ってたんだけど…
 …いつだったかな…神さんが、離婚したって聞いて…
 そこから…なんだか…気持ちがどんどん膨らんじゃって…
 でもさ、神さんはそれでも離れた家族を大事にしてて…
 …そんなとこも好きで…

 あたしの就活の事も、ずっと神さんに相談に乗って貰ってたんだ。
 コバッキーにはぜんぜん会わなかったけど、神さんとはほとんど毎日顔を合わせてたんだよ(笑)

 …就活が少し落ち着いた頃に…神さんが3月いっぱいで辞めるって聞いて…
 …コバッキーはもう、とっくに知ってんでしょ?」

 僕が小さく頷くのを、槙村さんは横目で見て、また視線を星に戻した。

「春になったら…もう逢えなくなっちゃうんだなーって思ったら…
 ……
 もう、言っちゃうかー、ってね。
 …好きだよって。
 …男として見てるよって。



 …そしたら…まぁ…フラれまして」

「そう…だったんだ」

「まぁ。まぁまぁ。分かってたし。
 結構アプローチしてたつもりだけどさ。
 神さん、娘みたいーぐらいにしか感じてなかったんだよ。
 振り向いて貰うのは…ムボーだったかなぁ…」

 やめて。

 その寂しそうに目を臥せるのを。

 どうしても、

 なっちゃんと重ねちゃうんだよ。

「はー。やっと…誰かに言えた。
 ハイ、あたしの話オシマイ。
 次、コバッキーの番…」



 せーちゃんがそう言って顔を少しこちらに向けた時

 僕は上半身を運転席に乗り上げて

 せーちゃんの左側に右肘をついて

 僕の顔はせーちゃんの目の前にあって





 唇の表面がほんの少しだけ当たったのを感じた





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