ボーダーライン〈後編〉
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「…うぅ~っ、さむっ。
ほら、車に戻るよコバッキー」
肩を竦めて縮み上がった槙村さんは、僕の背中をバシッと叩いて、さっさと車に乗り込んだ。
「ちょっ…待ってよ、せーちゃん」
慌てて追いかけて、僕も助手席に乗り込む。
槙村さんは暖房の調節をして、運転で食べられなかった分を急いで口に入れていた。
「せーちゃん…別にゆっくりでいいよ?(笑)」
「あ、そう?(笑) 悪いね。
コバッキー退屈っしょ? ラジオ適当に変えていーよ。CDにしてくれてもいいし。
あ、こっから星でも見てる?」
槙村さんが天井のサンルーフのカバーをスライドで開けた。
満天の星が覗いて、僕は少しシートを後ろに傾けて、「いいね、コレ」と呟いて、それをしばらくぼんやり眺めた。
槙村さんも全てを食べ終えた後、
「ハッハッ、いいね~。今までそうしたこと無かったわ」
と言いながら、おんなじ様にシートをリクライニングさせて、手の平を枕に星を見つめた。
「そういえばせーちゃん、就活順調?
俺の知ってる3年生達も、今年に入ってから大変そうにしてるけど」
「ん? うん、まぁね~。あたし頑張ってるから(笑)
もう何社か面接に行って、色よい返事貰ってるんだー。
4年になったらさ、前期の早い内に単位全部取ってさ、就職前に語学留学を…」
槙村さんの今後のスケジュールを聞きながら…僕は思った。
話すなら…今か?
「あの…さ、せーちゃん。
会ってなかった間の話、なんだけど…」
「待って」
意を決して口にすると、槙村さんの鋭い声が飛んだ。
驚いて、星から視線を外さない槙村さんを見る。
「ゴメン…
コバッキーの話も聞いてあげたいんだけど…
先にあたしの話、いい?」
「…?
いいけど…」
打ち明けようと出した勇気が萎んじゃった。
せーちゃんの話の後でまた話そうって思えるだろうか? と不安になりながら、槙村さんの話に耳を傾ける。
「あの…さ。
あたしさぁ…言ったんだよ」
槙村さんが星から目を離さないまま、ゆっくり言った。
「…ナニを…?」
なんか…前にもこんな感じがあったな。
槙村さんが神保さんを好きって打ち明けた、あの時と同じ空気を感じた僕。
槙村さんの次の言葉を、同じ様に星を見つめながら待った。
「好き…って、言ったんだよ…
神さんに」
…