ボーダーライン〈後編〉
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「せーちゃん…どこまで行くつもり…?」
先程ドライブスルーで買い込んだハンバーガーやらポテトやらをつまみながら聞くと、槙村さんも運転の合間に少しずつ口に運びながら、
「もー少し…」
と答えた。
そしてほとんどを胃の中に収めて、ぬるくなったコーヒーもあと少しで飲み干そうという頃に、
「さぁ着いた」
槙村さんがパーキングブレーキをギチッと踏む音が鳴り響いた。
「ここ…どこ?」
全然知らない景色、しかも外灯が少なくて視界が悪く、槙村さんが一緒とはいえ少し不安になった。
「えーとね…この辺りだよ」
槙村さんが上のライトを点けて地図を広げた。
槙村さんが指差したのは、とある山の町の、程よく大きな公園の脇だった。
何故、こんな所まで?
「コバッキーは中で待ってていーよ、寒いし」
疑問だらけの僕を置いて、槙村さんはさっさと車を降りてしまった。
「ちょっ…待って、せーちゃん」
こんな真っ暗な中に女の子一人にさせられない、慌てて僕も車を降りた。
厚着をしてるけれど、冷たい空気が頬をチクチクと刺した。
「うわっ…さむっ…」
「はは…何で出てきた? 中で待ってろって言ったのに」
槙村さんは肩越しに僕を見て、呆れた様に言った。
「だって…こんな暗い中、一人じゃ危ないでしょうよ…」
「そんな心配するほどじゃないよ、すぐそこだし…
あれを…見たかっただけだから…
コバッキーはつまんないと思うよ」
そう言って槙村さんが指差した先には…
山の影の合間にきらめく、小さな町の灯り達。
夜景と言うには…かなり物足りないと思うのだが、槙村さんは目を細めて、穏やかな顔で見つめていた。
「たまたま見つけた場所なんだけどさぁ…
ちょっと…似てんだよね。
あたしが育った所からも、こんな景色が見えてさぁ…
時々、見に来てるんだよ。気持ちがごちゃごちゃしてる時とかね」
「ふぅん…
せーちゃんの、秘密の場所?」
「そ」
「星も綺麗に見えるね…町の灯りも空に吸い込まれて星みたいだ」
「ふっ…また女子みたいな事言うね、コバッキー」
「ちがいますぅ、れっきとしたオトコですけどぉ」
「ハッハッハッ。まぁ…ありがと。付き合ってくれて」
「…どういたしまして…」
それからしばらく、僕達はそこで町の灯りと星空を眺めた。
せーちゃんの心のごちゃごちゃを聞く事はせず…
僕はまた、これまでの事をどう切り出そうか、頭の中で整理を始めた。
時間を作って話を聞いて欲しいと最初に言ったのは僕なんだから、何も話さずに今日が終わるのは…
それだけはダメだと、自分に言い聞かせた。
…