ボーダーライン〈後編〉
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「城田くん、俺先に出ちゃうから、戸締まりお願いね。こないだ教えたから大丈夫だよね?」
今日の運搬の分が終わり、いつもなら一服してから帰る僕に、城田くんは疑問の視線を投げた。
「はっ? たった一度じゃ不安だっつーの」
タバコを吸っていたので、言葉と共に煙が勢いよく吐きだされた。
「そこをなんとか、お願い。城田くん覚え早いしさぁ、頼りにしてるんだけどな」
「えっへっへぇ? まぁ、しゃあないなぁ」
すぐに飽きるのがたまにきずだけど、とは心の中に留めておいて、怪しい笑いを浮かべる城田くんに後を任せた。
僕が扉の向こうへ出ようとした時、
「あっもしかしてこの後、誰かとデート?
聞いてるよ、今女泣かせなんだってねー(笑)」
城田くんがニヤリと笑って言った。
僕はそれに返事をしないで、静かに扉を閉めた。
せーちゃんがここで待つって言わなくてよかったな…
城田くんが何を言い出すか、たまったもんじゃない。
【せーちゃん。今から向かうよ】
図書センターの敷地から出たところで槙村さんにメッセージを送信した。
【了解】
と返事が来た時には、もう待ち合わせのコンビニが見えていた。
コンビニに入る手前で、
「よぅよぅ。
そこのイケてる眼鏡のおにーさん。
このシャレオツな車で夜のドライブとしゃれこもーぜ。
イッシッシ」
入口のすぐ近くに停まっていた、リアにスペアタイヤを載っけているオフロード仕様の軽自動車から、そんな声が飛んだ。
わざとしゃがれた声を出したんだろうが、そんな喋り方なら僕にはすぐに分かってしまう。
「せーちゃん! 大学の外で怪しいコト言うのやめなさいよ(呆)
っていうか…
どーしたの? この車? せーちゃん買ったの?
なんていうか…
どうしてそう、勇ましさが全面に出るかな(苦笑)」
僕の矢継ぎ早の言葉に槙村さんは、開き切ったウィンドウに片肘を乗せながら、イタズラっ子みたいに口角を上げるけれど、眼差しは優しさに満ちていた。
「へいへい。
コバッキーは相変わらず言う事が女子だね(笑)
さぁ、早く乗んなよ」
槙村さんと顔を合わせたら何も言えなくなるんじゃ、なんて杞憂だった。
いつも通りのせーちゃんで、ほっとした。
…