ボーダーライン〈前編〉

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 肩スレスレのワンカール、厚めの前髪、片側の耳に目立たない茶系の花形のバレッタ。

 図書館のスタッフってもっと歳のいった人がするものだと思っていたから、自分とさほど変わらなさそうなこの女の子を見て少し驚いた。

 【学生研修中】という腕章を付けていた。そうか、授業の一環なんだ。取ってみたかった講義のひとつだったが、それは2年生になってから希望できるものだった。

「あ…えと…そうなんですか、すみません」

 小さく謝ると、彼女はニッコリ笑った。

 その時に目もとに泣き袋が目立って見えて、ドキッとした。可愛い。

「いいえ。あの、よかったらこれ使って下さい」

 彼女はカウンターの下からB5のルーズリーフ2、3枚を取り出してクリップボードに挟んで、胸のポケットから可愛らしいデザインのボールペンを抜いて一緒に手渡してきた。

 戸惑いながら受け取った、こんなに紙いる?

 でも、求人の紙を1枚1枚丁寧に見ながらメモを取っていったら、意外にも裏表にビッシリ埋まった。

「長らくお借りしまして。ありがとうございました、助かりました」

 紙を外したクリップボードとボールペンをカウンターの中の彼女に差し出した。

 彼女はパソコンで何かの処理をしていたが手を止めて、また泣き袋の笑顔を見せた。

 また、ドキッとする。

「なかなかいいですよ、構内バイト。
 ご飯時に入れてるとね、まかないが出るんですよ。ありがたいですよね、食費も交通費も浮くし。
 よかったら、前向きに検討して下さい。どこも人手が足りないって、泣いてたから(笑)
 あ、返却ですか? 今参ります」

 返却カウンターに人が来たので、彼女はそちらに行ってしまった。

 青とグレーのボーダーのシャツを着た彼女を、

 【国2・紡木つむぎ】という名札を付けていた彼女を、

 しばらく遠目に眺めてから、本を借りに来た事も忘れて、僕は図書館を出て帰途に着いた。





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【ボーダーライン】中間雑談・1





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