ボーダーライン〈後編〉
38/55ページ
【今日、時間ある?】
2月も半ばを過ぎた頃、槙村さんの久しぶりの短いメッセージを受け取った。
やっと、ゆっくり話せる時間が取れたんだ。
その時をあんなに待ちわびていた…はずなのに。
返事を躊躇する…僕は槙村さんに軽蔑されてもおかしくない事を、沢山しでかしていた。
【ん? どーなの? 忙しい?】
いつもならすぐに返事を出す僕を訝しんで、槙村さんは続けてメッセージを送ってきた。
【ごめんごめん、今起きたところ!
今日は午後にひとコマあって、あとはバイト。その後でいいなら。
ごはんでも食べに行く?】
半分うそ、半分ほんとうの事を書いて、送信。
【あーそう。あたしは午前で終わるんだ。
じゃあ一旦帰るから…バイト終わったら、南門の前のコンビニで待っててよ】
槙村さんの返しに首をかしげる。
いつもだったら、図書センターの事務室に居座ってお茶をすすってそうなのに。
【事務室で待っててくれてもいいよ?
今日は神保さんいないけど(笑)】
僕のメッセージの後しばらく間が空いて、これにも首をかしげた。
てっきり、なんだー、神さんいないのー? とむくれたメッセージを送るかと思ったら。
【今日はいい。とにかくコンビニで。バイト終わったら連絡ちょうだい。じゃーね】
それで槙村さんからのメッセージはおしまいだった。
そんなわけで、槙村さんと久しぶりに逢う事になった僕。
その日、講義を受けている間も、バイトの運搬をしている間も、せーちゃんにどこから話そうか、そればかりを考えていた。
そもそも…せーちゃんの顔を見て話せるんだろうか?
今の僕をせーちゃんが知ったら…
僕は、せーちゃんの眼差しを…受け止める自信がなかった。
…