ボーダーライン〈後編〉

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 (★)

 僕はどこまで堕ちていくのだろう。



 アスナを抱いてから、紡木さんへの苦しい片想いが嘘の様に無くなった。

 ただ無くなったのではなくて…ぽっかりと穴を空けたのだ。



 あの後、しばらく経ってから、アスナは一度だけ僕に逢いに来た。

 家の最寄り駅に降り立つ僕を待ち伏せして、正式に、また付き合って欲しいと言った。

 僕は…そんなつもりはない、あの時、衝動で抱いたりして悪かったと…伝えた。

「ばかっ!」

 ばちん。

 僕に渾身の平手打ちをお見舞いして、アスナは去った。

 これでいい。傷の舐め合いは1回で十分だ。

 アスナとはこれきりで、二度と逢う事はなかった。



 しばらくは恋とかそういうのはいいや…

 特にバイトは頑張って、親に立て替えて貰っていた教習の代金を全て返済し、知り合いから格安で中古車を譲って貰った。

 この辺りから…僕の行動範囲が格段に拡がって、知り合う人も急激に増えた。

「木庭さん、今度の飲み会人数が足りなくて。参加お願いしていい?」

 バイトの城田くんのお誘いがあったり、

「木庭くん久しぶり。
 木庭くんの知り合いでフリーの人っていないかなぁ? 私の友達で、いい子なんだけど出逢いがなくてね。
 合コンしてあげたいんだぁ。相談に乗ってくれる?」

 教習の合宿で一緒だった女の子から連絡が来たりしたから、特に断る理由もなくて全てに足を運んだ。

 その度に…僕は女の子を抱いて、一夜限りの関係を幾つも持った…

 時にはラブホテル、時には車の中、時には誰も通らない細い路地の奥…

「あん…ノブくぅん…あぁんっ…挿れて…早く挿れてぇ…っ」

 乱れた服、零れそうな白い肌を見せながら、彼女達は僕を求めた。

 僕が抱いた女の子達は全て、悲しそうな笑顔をたずさえていて…ほっとけなくて…どうしても、紡木さんと重ねてしまう。

 僕は必ず、彼女達を紡木さんに置き換えて、欲望を放っていた。

 頭の中で、紡木さんを犯す僕…結局のところ、紡木さんを忘れられてないんだ。

 そして彼女達のほとんどが、僕との交際を望んだけれど。

「ごめん。
 僕にはそんな気は全くない。
 あの夜の事は…忘れて」

 僕はお決まりの台詞を言って、お決まりの平手打ちを食らっていた。





 気付けば、片手で数えられないくらいまで、僕はそんな事を繰り返していた。





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