ボーダーライン〈後編〉
34/55ページ
「──こうして歩くの、久々だね」
僕と肩を並べて歩くアスナが、ポツリと言った。
何でこんな事になってるんだろう。
居酒屋で飲んでいる時は、僕とアスナはお互い対角線上の端っこにいて、一度も言葉を交わさなかった。
っていうか、アスナは僕だって事にしばらく気付いてなかったようで、6ー4で分かれて話し込んでいた時に仲間が不意に僕の名前を出して、それでえっ? となったらしい。
僕達は居酒屋を出て、散り散りに帰路についた。僕とアスナは帰る方向が同じで、他に誰も歩いていない道をなんとなく一緒に帰っている…
「元気だった…?
っていうか…ほんと分からなかった。
あの頃と全然違うんだもん…」
そう言ってアスナはクスクスと笑う。
「まぁ…2年経ってるしね?
アスナはすぐ分かったよ。あんまり変わってない」
「ひどーい、大人っぽくなったとか言えないのー?」
「わっとっと」
アスナに肩を押されてよろめいた。この感じ、懐かしいな。いつもこうやってじゃれ合ってたっけ。
変わってないなんて言ったけど、アスナはキレイになっていた。
ゆるくウェーブがかかっていた髪がストレートになっていて、肩をサラサラと撫でていた。
軽めの化粧をして、あどけなかったアスナはぐっと大人っぽくなっていたんだ。
「ノブくん…今付き合ってる人いるの…?」
「えっ…いやいないけど…なんでそんなコト聞くの(笑)」
「えっそうなの? そんなにかっこよくなったのに、へんなのー」
「ちょっと…アスナそんな辛口だった?(笑)
そういうアスナこそ、青春謳歌してるんでしょ?」
これだけ可愛い子だ、大学でいい人を見つけてるんだろうと思ってそう言うと、アスナの顔が少し曇って、
「いや、あのー…へへ、今は傷心中。彼と別れたばかりなんだー」
と寂しそうに笑った。
何故だか、紡木さんと重なった。
僕があんまり見つめるから、アスナは不思議そうにん? と首を傾げた。
「俺もね…
好きな人にふられたばかり…」
そこからしばらく無言…二人の口から白い息が舞い上がる…
…沈黙を先に破ったのは、アスナ。
「ね…
今だけ…
……あの頃に、戻ってみない……?」
そう言って僕の手に触れたアスナの指は、とても冷たかった。
…