ボーダーライン〈後編〉

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「──こうして歩くの、久々だね」

 僕と肩を並べて歩くアスナが、ポツリと言った。

 何でこんな事になってるんだろう。

 居酒屋で飲んでいる時は、僕とアスナはお互い対角線上の端っこにいて、一度も言葉を交わさなかった。

 っていうか、アスナは僕だって事にしばらく気付いてなかったようで、6ー4で分かれて話し込んでいた時に仲間が不意に僕の名前を出して、それでえっ? となったらしい。

 僕達は居酒屋を出て、散り散りに帰路についた。僕とアスナは帰る方向が同じで、他に誰も歩いていない道をなんとなく一緒に帰っている…

「元気だった…?
 っていうか…ほんと分からなかった。
 あの頃と全然違うんだもん…」

 そう言ってアスナはクスクスと笑う。

「まぁ…2年経ってるしね?
 アスナはすぐ分かったよ。あんまり変わってない」

「ひどーい、大人っぽくなったとか言えないのー?」

「わっとっと」

 アスナに肩を押されてよろめいた。この感じ、懐かしいな。いつもこうやってじゃれ合ってたっけ。

 変わってないなんて言ったけど、アスナはキレイになっていた。

 ゆるくウェーブがかかっていた髪がストレートになっていて、肩をサラサラと撫でていた。

 軽めの化粧をして、あどけなかったアスナはぐっと大人っぽくなっていたんだ。

「ノブくん…今付き合ってる人いるの…?」

「えっ…いやいないけど…なんでそんなコト聞くの(笑)」

「えっそうなの? そんなにかっこよくなったのに、へんなのー」

「ちょっと…アスナそんな辛口だった?(笑)
 そういうアスナこそ、青春謳歌してるんでしょ?」

 これだけ可愛い子だ、大学でいい人を見つけてるんだろうと思ってそう言うと、アスナの顔が少し曇って、

「いや、あのー…へへ、今は傷心中。彼と別れたばかりなんだー」

 と寂しそうに笑った。

 何故だか、紡木さんと重なった。

 僕があんまり見つめるから、アスナは不思議そうにん? と首を傾げた。

「俺もね…
 好きな人にふられたばかり…」

 そこからしばらく無言…二人の口から白い息が舞い上がる…



 …沈黙を先に破ったのは、アスナ。



「ね…
 今だけ…



 ……あの頃に、戻ってみない……?」





 そう言って僕の手に触れたアスナの指は、とても冷たかった。





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