ボーダーライン〈後編〉

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 (★)

 なっちゃんの視線を僕に向けさせる。そう決意して…

 早く図書館の閉館時間になれと念じた。

 あの飲み会の日の電話以来、僕は紡木さんと話していなかった。

 会ってもいない、メッセージの短いやりとりも止まったまま…

 気不味かったのもあるが、この頃、僕が今まで受け持っていた運搬ルートを新人の城田くんに任せて、僕は別のルートを一から覚えるのに必死だった。

 というのは、神保さんが3月をもってここでの仕事を辞めるので、学生の分際ではあるのだが僕が大部分を引き継ぐ事になったのだ。

「学業と掛け持ちさせて申し訳ないな。
 でも、君は自分が思うよりも遥かに器用で頼りになるし、君が進みたいと思っている職種にこの経験は必ず役に立つから。
 ひとつの勉強として、やってみてくれないかな。
 もちろん俺がいる間は全力で教え込むし、出た後も…別の社員が就くから」

 神保さんにそう言われては、やるしかない。

 神保さんに早く安心してもらえるように、僕はがむしゃらだった。



 閉館時間を待つまでもなく、僕はあっけなく紡木さんに久しぶりに逢えた。

 逢えたと言うには少し違う。

 とある教授の研究室に資料の届け物があって、その場で荷を解き、整理整頓をした。その時間、約15分。

 研究室を出て角を曲がった所で、その研究室宛に荷物がもうひとつあるのに気付いて、慌てて踵を返した。

 するとちょうど、研究室の扉が開いて…

 教授と…紡木さんが出てきた。

 僕の心臓が悪い音を立てて飛び上がった。咄嗟に角の陰に隠れる。

「先生…ひどいです、さっきの運搬で来た人、私の友達だったんです…
 なのに、扉ひとつ向こうで…あんなコトするなんて…」

「ククク…そうだったのかい?
 どうりで…いつもなら遠慮なく啼くのに、必死に抑えてたワケだ。
 そんなキミに余計にそそられたけどね…
 今日も可愛かったよ…また来てくれるね…?」

「は…い…
 あの、先生…? 就職先の事、どうか宜しくお願いします…私、どうしてもそこに就きたいので…」

「分かってるよ、まだ十分時間はあるのに、キミも熱心だね…」

「…ンッ…」

 ──どうして僕は、いつもいつも、こういう場面に出くわすんだろう。

 僕は頭を抱えて、壁に背中をずりながら座り込んだ。

 教授が紡木さんのカラダを撫で回しながら唇を貪るのを止めるまで。





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