ボーダーライン〈後編〉
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(★)
年が明けて、大学がまた始まった。
ある日、入っている講義が少なめで午前中の内に終わってしまったので、もうバイトに入ってしまおうと図書センターに向かった。
その途中で松堂さんとすれ違った。
「松堂さん…お疲れ様です。
就活、忙しいですか?」
「おう。まぁ、それなりに」
「そうですか。がんばって下さい。じゃ、失礼します」
「あっ、ちょっと待てよ」
正直口も聞きたくなかったが、松堂さんに引き止められて、行きかけた足を止める。
「なんですか…?」
「あのさぁ…
先月の飲み会の日の…奈津に電話してきたの、オマエだろ?
画面に通話記録残ってて…
アイツ電話切ったなんて言ったけど…通話時間がそれなりにあったんだよな…
オマエ…
……聞いてたろ?」
僕は血の気が引いた。
殴られる。そう思ったが、松堂さんはそうしなかった。
それよりも、もっとエグい事を、悪魔の囁きみたいに言ったのだ。
「コーフンした?
アレ聞いて、想像して、ヌイた?
オマエ、奈津のこと好きだもんな。バレバレ。
言ってなかったけど、俺と奈津、一応付き合ってるんだよ。
でも、束縛したりしない。
例え奈津とオマエがどうこうなっても…
俺だって、奈津だけに縛られたくねーし、他の子と普通にしてたい…
ま…時々…本気になったりするけど…
それでも奈津は俺から離れないし、俺も結局奈津に戻る。
駆け引きを楽しんでいるんだ。男のオマエなら、分かるな?
スパイスになるなら…俺、オマエと奈津のこと目を瞑ってもいーよ」
──なんて事を言うんだろう、この人は。
僕と紡木さんの関係に気付いてるのか違うのか…ハッキリしないけれど。
今日バイトの後で図書館に行ったら、紡木さんに全部話そう。
こんなヒトのこと、もうやめなよ。
全部知った松堂さんの本性。
それを知らずに、くそ真面目に誠実を装って、紡木さんを慰めていた僕。
その裏側にある好きという想いを、必死で抑え込んでいた僕。
もう…キスと…挿入を…ためらわないと…決めた僕。
また…ボーダーラインを掻き消す…卑怯な僕…
そんな僕の心を見透かすように、
「ま、がんばれ、色々(笑)」
松堂さんは耳元でそう囁いて、僕の肩を叩いて行ってしまった。
…