ボーダーライン〈後編〉
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(★)
それ以来…
僕と紡木さんとの間に会話が無くなった。
毎日のように楽しく送り合っていたメッセージも、ぷっつり途絶えた。
バイトの時は、
「お疲れ様です、今日の資料を届けに来ました」
「ご苦労様です、ではこちらに」
とよそよそしい業務挨拶を交わしていた。
でも…
運搬が終わり、神保さんとお茶している時にブーッとポケットの中でスマホが震えて、
「じゃあ神保さん、お先です。お疲れ様でしたぁ」
「おー。気を付けてな。さっきちょっと雨が当たってたぞ?」
事務室の扉の向こうで画面を開くと、
【来て。例の場所に】
紡木さんから短いメッセージが入っていた。
外は本降りになっていたが、構わず僕は図書館へ走っていった。
裏口から入って、閉館作業の済んでいる図書館の奥へ脇目も振らず進んでいく。
「なっちゃん」
例の場所で窓の外を眺める紡木さんの背中に声を掛けると、紡木さんは寂しそうな顔で振り向いた。
「ノブく…っ」
紡木さんが言い終わらない内に、僕は彼女の身体を抱きしめて、髪を撫でて頬ずりをする。
紡木さんは僕の身体がずぶ濡れなのを気にして、手持ちのハンドタオルで拭こうとしたが、
僕はその手首を掴んで固定して、もうひとつの手を紡木さんの服の裾から突っ込んだ。
「あああ…っ
ぁん…ぁんん…
…ノブ…くぅん…」
僕の手の平が、僕の指が、紡木さんの肌を、紡木さんの敏感な箇所を滑った。
クチュクチュと卑猥な音が闇を飛ぶ。
どこをどうすれば、彼女の蜜壺を溢れさす事ができるか、もう十分承知だった。
「なっ…ちゃん…
…キモチイイ…?
あのヒトと…
…どっちが上手…?」
「…あぁん…っ!
そんな…イジワル聞かないでぇ…
…あっ…ァン…
…ノブくん…えっち…
……キモチイイよぉっ……」
だけど…
どんなに濡れた声を聞いても…
どんなに艶かしくカラダをくねらせた様を見せられても…
僕はキスと…挿入を…することはなかった。
紡木さんは松堂さんと別れていないのだ。
紡木さんは贈り物のブレスレットをずっと外さなかった。
僕とこんな事をするのは、松堂さんへの当てつけ…松堂さんと外で堂々と出来ない寂しさから…
それを分かってて、紡木さんのカラダをこんなにも貪っているのに、横取りする男になりたくないという変なプライドが、僕に新たなボーダーラインを引かせた。
「……っ!」
欲望の塊を放出しそうになると、先にイッてしまった紡木さんを置き去りにして…別の場所で抜く。
「…ふ…っ…うぅ…
なっちゃん…
……好き……」
冬休みに入る寸前まで…僕達はそんな関係を続けていたんだ。
…