ボーダーライン〈後編〉
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その嫌悪感で僕の目が見開かれる、それをガラス越しに見たのだろう、紡木さんがこちらを振り返った。
「ほら、そこの棚の…隙間から…見えちゃったの。
私、しばらく動けないで…
けんちゃん、気付いてなかった…」
紡木さんの指差す方を見る、僕が紡木さんと松堂さんのを見たのと全く同じ場所。
「なんで…?
どーして…?
私に魅力ない…?
だから誰にも言うなって言うの…?
だからその子に気持ちが行っちゃったの…?
よりによって、なんで…ここで…
けんちゃんとキスした、大切な場所なのに…っ」
紡木さんが両手で顔を覆ったと同時に、僕は紡木さんのすぐ隣に行って背中をさすった。登山の時と同じ様に。
紡木さんが一定の感覚でしゃくりあげるのを聞きながら、
「あんな人のこと…もうやめなよ」
自分でもビックリするぐらいの鋭い言葉をついた。
紡木さんも驚いて顔を上げた。
だって、それ、遊びじゃん。紡木さん、遊ばれてるよ。紡木さんを手に入れて、満足した? それで飽きちゃった?
夏の海ん時みたいに、他で遊びたくなったんだろう…?
全部言えたらよかったのに、飲み込んだ。
紡木さんが残酷なことを、僕を見つめて言うから。
「それ…は…無理…
…そんなでも…
……好きなの……
付き合って…もうすぐ3ヶ月…
キスの先のことだって…してるもん…
……離れたくない……」
そう言って紡木さんはまた、顔を隠した。
聞きたくなかった。
納得いかない感情を抱えてまで松堂さんを想っている事も。
紡木さんと松堂さんがどこまで進んだかなんて事も。
「…どうしてさぁ、
キミだけ辛くいなきゃダメなんだよ…?
──なっちゃん」
気付けば、僕の腕の中に紡木さんがいて…
…紡木さんを、そう呼んでいた。
…