ボーダーライン〈後編〉

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「考え事…?」

 ゆっくり紡木さんに歩み寄る。一歩一歩踏みしめる度に脳裏によぎる…アノコト。

「ノブくん…
 …また、聞いて貰ってもいい…?」

「…ウン…」

 紡木さんは僕に背を向けて、窓の向こう側を見た。

 ガラスに映る紡木さんを見つめるけれど、一向に視線が絡まない。

「あの…ね。
 こないだね。見ちゃったんだ」

「…? ナニ…を?」

「……けんちゃんが……」

 そこまで言って、紡木さんは一度唾を飲み込む。目を臥せって軽く眉間にしわを寄せた。

「…無理して言うことないよ…? 紡木さん…」

 そんな紡木さんを見てられず、というより、この場所で松堂さんの話を聞きたくない。

 でもそれを紡木さんに言えるはずもないから、差し障りのない言葉を投げかけると、紡木さんは首を力なく振って、話を続けた。

「んーん。言わせて…
 けんちゃんね…こないだ…大学の中で知らない女の子と二人で並んで歩いてた。
 すごく仲良さそうに…けんちゃん顔広いし、誰にでもフレンドリーだから…
 でも…その場で、私がけんちゃんの彼女ですって言いにいけないのが…何でかなって…」

 うん…と相槌しか出来ない自分が歯痒い。

 紡木さんにこんな顔をさせている松堂さん、一体何を考えてる?

「それで…ね。
 今日ね、私が仕事に入った時に、けんちゃんと彼女がまた二人並んで奥に行くのが見えて…
 また、声掛けられなかった…
 しばらくして、返却本の棚が埋まってきたから、元の場所に戻しに歩き回ったの。
 けんちゃんが図書館を出るのをまだ見てなかったから、どこかにいるかなぁって、見回して…
 そしたらね…
 けんちゃんとその人が、ここに…
 二人で肩寄せて、楽しそうに喋って…
 それで………





 ………キスしてた」





 松堂さんへの嫌悪が、僕の中で瞬時に爆発した。





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