ボーダーライン〈後編〉
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僕が図書館に行けたのは、閉館の19時直前だった。
紡木さんが正面ゲートの前に【本日は閉館致しました。またのご来館をお待ちしております。】の立て札を置いている所で、
「あっノブくん! お疲れ様!」
暗がりの中の僕に気付いて、駆け寄ってくれた。
「遅くなってごめんね」
「ううん。あ、正面から台車入れていいよ。もう誰もいないから」
紡木さんの言葉に甘えて、僕は図書館の中へ台車を押した。
館長ももう帰っていて、紡木さんが閉館作業を任されていた。
「紡木さんも、上の人がいない勤務だったんだね(笑)」
「ちょっとだけね(笑) ノブくんは大変だったよね。大丈夫だった?」
「んー、大きな問題はなかったけど、すごい疲れた。
もう一人のバイトの子は最後まで付き合ってくれなかったしねぇ(苦笑)」
「ふふ、先輩も大変だね。
あっノブくん、その資料は2階に…私も2階の消灯しなきゃだから、一緒に行こう」
いつものように一緒にカウンター内やカウンター周りに資料の大部分を置いて、残りの少しの資料を見て紡木さんがそう言った。
先に1階の窓の鍵の確認と消灯をしてから、上へ。
検索用のパソコンのテーブルに資料を置き、2階も同じ様に鍵の確認、消灯。
「手伝ってもらっちゃって…ごめんね」
「いえいえ。遅くなっちゃったから、これくらいさせて」
そんな会話をしながら階段を降りる。
紡木さんを…ごはんに誘おうかな? おなかすいたし、友達として声を掛けるだけ。
よこしまな思いはどこにもないと念じながら、紡木さんを振り返った。
「……紡木さん?」
「……あ、ごめん…
ちょっと……考え事……」
紡木さんは僕の大分後ろの方で立ち止まっていた。
そこは窓から月明かりが差し込んで、室内灯が無くても十分に明るかった。
…紡木さんと松堂さんがキスをしていた、あの場所だった。
…