ボーダーライン〈後編〉
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槙村さんは掴まれた手首に視線を落としながら、ふぅとひとつ息をついて言った。
「あー…コバッキー?
どうした?
あたし、就活の事で事務局に行かないとなんだけど」
「せーちゃん…今更だけど…連絡先教えてよ…」
「は」
「だ…ってさ、
あー…あの…
そりゃあさ、せーちゃん忙しいの分かってるけどさ…
色々…聞いて貰いたい事がある…のに」
する喋っている内に、どういうわけか僕は、心が揺さぶられて泣きそうになった。
それを見られたくなくて、俯いたついでに槙村さんの手首も放した。
「あぁー…わかったわかった。
色々あったのね? 知らない間に?
よし、アプリで繋がっとこう。
あたしのIDは**ー***…それで検索して。
でもあたし、こういうのマメじゃないからね。返事あんまり出さないけど…
それでもいいんなら、ご自由にぶちまけろ!
じゃあね! 勉強もバイトもがんばんなぁ」
僕の二の腕をさすったかと思ったら、いきなりそこをバシッとはたいて、槙村さんは走っていってしまった。
槙村さんの小さくなっていく背中を見送りながら、僕はスマホを取り出して槙村さんのIDを検索した。
見つけた。槙村清佳。
ともだち申請をして、僕も次の講義が迫っていたから、急いで校舎へ駆けた。
その日の夜、槙村さんから申請許可の通知が来た。
【本当今更だけど~(笑) まぁひとつ宜しく】
今までの事。僕が溜め込んできた思い。やっとせーちゃんに伝えられる。
そう思ってキーを…キーを押す手が止まる。
せーちゃんには…顔を見て話したい。せーちゃんの言葉を…ちゃんと耳で聞きたい。
【本当に色々あったんだよ…(´-ω-`)
でもやっぱり、顔見て報告したいです。
就活落ち着いたらでいいから、話聞いてくれる?
時間出来たら連絡頂戴ね】
これだけ書いて送ると、すぐに既読がついて返事が来た。
【了解】
これでおしまい、短い受け答え、スタンプもなし、いっそ清々しくて槙村さんらしいと思った。
この次のやりとりがあるのは…もっとずっと後の話。
…