ボーダーライン〈後編〉

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 紅葉の見頃が過ぎて、冬が始まった。

 登山の一件から、僕と紡木さんは頻繁にメッセージを入れ合うようになった。

 半分は他愛のない雑談、もう半分は…松堂さんの事、男の心理について。

 紡木さんと松堂さんの付き合いは相変わらず他言無用で、何故そんなにも秘密にしたがるのか、同じ男の僕もその心理がよく分からない。

【ごめんね…何の力にもなれなくて(>_<)】

【ううん。話を聞いて貰ってるだけですっごく感謝してるよ(^_^) 誰にも話せないから…】

 そう、松堂さんに離れられるのが怖くて、紡木さんはサークルと無関係の友達にでさえ話していなかった。



 山での、部長なんだから当たり前なんだけど、テキパキと頼り甲斐のあった松堂さんには敵わないと思い知った僕。

 その彼女である紡木さんへの気持ち。

 本音は好き。

 でも、もう表に出しちゃいけない。

 そう誓って僕はボーダーラインを引いたのに…

 何の悪戯か前よりずっと、紡木さんとの距離が近い。

 その近さに戸惑いながら、僕は紡木さんの良き相談相手に徹した。





 この曖昧な状況を、槙村さんに全てぶちまけたかった。

 あの軽いノリで、色々発破を掛けて貰いたかった。

 でも、槙村さんと顔を合わせる機会が全く訪れない。

 ある日やっと、たまたまキャンパス内ですれ違って、

「あっコバッキー!
 元気? ちっとも会わないねー(笑)
 じゃあまたね~」

 久しぶりだというのにそのまま行こうとしたので、

「ちょ、っと、まってせーちゃん!」

 思わず僕は振り向いて、後ろから槙村さんの手首を掴んだ。

 「おわっ!?」と変な声を出して振り向いた槙村さんは、珍しく困ったような顔をしていた。

 一緒にいた友達に「先に行ってて」と一言言って、また僕に向き直った。

「コバッキー…友達の前でせーちゃんはやめてもらえると助かるなぁ」

 口を尖らせて恨めしげに見る槙村さんに、そういう自分だって人前でコバッキーはやめてよね、と文句を垂れそうになったけれど、それは敢えて飲み込んだ。

 いつまでも手首を放さない僕を槙村さんは怪訝の目で見てたけれど、それも敢えて見ないフリをした。





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