ボーダーライン〈後編〉
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僕は咄嗟に紡木さんから離れ、山口さんに気付いて貰えるように、スマホの画面を光らせて大きく腕を振った。
「二人とも、大丈夫か…!?」
斜面の上の闇の中から山口さんが姿を見せた時は、安堵して腰が抜けそうになった。
「山口さん、紡木さん両足捻挫したみたいなんです」
僕がそう言うと、山口さんはリュックから救急セットみたいなのを出して、手早く紡木さんの足をテーピングした。
それから、山口さんと僕とで紡木さんの両脇を下から持ち上げて、平らな地面まで坂を登った。
「まずいな…すっかり陽が沈んじまった…
二人とも…懐中電灯、なんて持ってないか…」
山口さんの弱々しい呟きに、僕達はフルフルと首を横に振った。
山口さんはふっと短く息を吐いてから、自分のスマホを出して耳に宛てた。
「山口さん? ここ圏外だから…繋がらないでしょ?」
僕が言うと、
「いや…全くじゃないんだ…うまく繋がる時がある…
……
……!
繋がった!
もしもし? 松堂?
見つけた。ノブもツムちゃんもちゃんといる」
奇跡的にすぐに松堂さんに繋がって、僕と紡木さんはお互いに顔を見合わせて綻んだ。
「…ああ、分かってる、でも、ツムちゃんが坂を滑って両足くじいたんだ。
暗くなって俺達も身動き取れない…
…だから、分かってる、灯り持ってきてない俺も悪いって…」
苦い顔をしながら山口さんは通話を続ける…
ひと通り喋って、電話を切った。
「ノブ、ツムちゃん、今から松堂来てくれるから。
20分くらい…
暗くて寒いけど…頑張って待とう!」
「私のせいで…」と何度も呟く紡木さんを励ましながら、色んな他愛のない話をしながら、持ってきていたカイロの封を全て切って暖を取りながら、僕達は松堂さんを待った。
通話から…予想より遥かに短い時間で…
「おぅい…
山口…
ノブ…
…ツムちゃん…
…いるかー?…」
下り側から一点の光が揺らめいて、ゆっくりとこちらに近づいてきた…
…