ボーダーライン〈前編〉

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 彼は何故、僕が一浪って分かったんだろう。



 と思った事はあっという間に忘れて、もちろんサークルの事も忘れて、家と大学を往復する日々が過ぎていった。

 1年生の内に取っておかなきゃならない必修科目、2年生になってからでも構わない選択科目、単に自分が興味があって聞いてみたい自由科目。

 あれやこれやと時間割りに詰め込んで仮提出したら、入れ過ぎだとダメ出しされた。

 2年間勉強漬けだったせいか、勉強していない自分が落ち着かなかったし、

 1年生の内に沢山単位を取得しておけば、卒業に近づくにつれて楽になるだろうと踏んだから、そうしたのに。

 仕方ないので、何教科か諦めた。

 それでも、他の1年生たちに比べたら多目に取っている方で、取り扱う教科書の数も多かった。

 教科書の売価がえらい高いのに驚いた。

「教科書の為に取っておいてたお金、再受験料で使っちゃったから。
 後は自分の手持ちでなんとかしなさい」

 家計簿を広げてそろばんを弾きながら母親は言った。

 冷たいと思ったが、一浪させてくれた手前仕方ない。

 残り少ない自分のお小遣いと、高2の時に少しやっていた宅急便の仕分けのバイト代が手つかずになっていたから、それを合わせてどうにか教科書の件は解決した。

 でも手持ちはスッカラカン、交通費と昼食代は家から出すと言ってはくれたが、自分が自由に出来るお金は早く欲しいと思った。



 バイトをするなら、大学の近辺で探したい。

 大学が終わって夕方のラッシュアワーに揉まれながら向こうへ帰った後で仕事に行くというのが、精神的苦痛を強いられそうだったから。

 大学の図書館に併設されているカフェで軽く食事をとりながら、僕はこの近辺の求人広告の冊子を広げた。





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