ボーダーライン〈後編〉

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 もうすぐ9月が終わるある日。

 いつものように運搬ルート最後の図書館へ向かう僕。

「お疲れ様でーす」

 裏口をくぐり、バックヤードで作業をしている館長に軽く会釈すると、

「あっキミ。
 受付、今からだと思うんだ。ついさっき僕が新しく入ってきた本達を置いてくるように言っちゃったから。
 すぐ戻ってくるはずだから、ちょっと待っててあげて」

 と言われた。

「はい。わかりました」

 僕は返事をして、仕切りの暖簾を掻き分けた。

 館長の言った通り受付カウンターはもぬけの殻で、

 【只今席を外しております。すぐに戻りますので、御用の方はしばらくお待ち下さい】

 と書かれたプレートが立てられてあった。

 その通りにしばらく待ってみたけれど、紡木さんは一向に姿を見せない。

 たまたま今日はあまり人が入っていないようで、受付カウンターに来る人はまだいないけれど…

 もしかして、困っている? 置くように言われた本の数が多過ぎるのかも?

 そんな予測をして、僕は運んできた資料を台車ごと受付の内側に置いて、紡木さんを探しにいった。



 1階をひと通り回ってみたが、紡木さんを見つけられなかった。

 図書館は2階もある。階段をひとつ踏みしめた、その時。

「……っ」

 紡木さんの声がしたような気がした。

 2階への階段の裏側に、誰も見ないような小難しい資料ばかり置いてある図書スペースと、関係者以外立ち入り禁止の地下書庫へ続く道がある。

 そこはまだ見ていない。

 階段を上る足を止めて、僕は裏に回った。

「……ま…って……」

 紡木さんの声。

 姿は見えないけど、多分この書棚を挟んだ向こう側にいる。

 紡木さん、何をしているの。

 掛けようとした言葉が出なかった。

 何故なら、





「…俺のコト、好きなんだろ…?
 ……奈津……」





 悔しいぐらいに男らしい低音ボイスで

 松堂さんが紡木さんの名前を呼び捨てたからだ





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