ボーダーライン〈後編〉
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その日の業務が全て終わって、僕は図書センターの事務室で神保さんとお茶をしていた。
誕生日祝いに神保さんから貰った渋いタンブラーは、ここ用に置いてすっかり馴染んでいた。
僕が使うのを、神保さんはニコニコで見ていた。
お煎餅の入った器に手を伸ばしかけた時、
「神さん、いるっ?」
いつだったかみたいに事務室の扉が勢いよく開いて、槙村さんが騒々しく入ってきた。
ビックリして器の端をぶつけてしまって、お煎餅をテーブルの上でひっくり返してしまった。
「あっコバッキーもいた、ちょうどよかった。
あのさぁあたしさぁ、実家に帰ってた時のお土産の事すっかり忘れててさぁ。
賞味期限がヤバいから、急いで食べてよ」
ひょいひょいと溢れたお煎餅を摘まんで器に戻し終えてから、槙村さんはマリンボーダーのショルダーバッグから銘菓の箱詰めを二つ出した。
「おっレーズンバターサンド。好きなんだよねぇコレ」
神保さんが身を乗り出して、包装を解いた。
「だよね。前にもそれ持ってった時、えらい喜んでたもんね。
コバッキーは、食べれる? あたしはレーズン駄目だからさ…こっちの方が好きだわ、苺チョコ」
もうひとつの包装を槙村さんが解いた。
ラムレーズンとバタークリームをサブレ生地で挟んだお菓子に、ドライフリーズされた苺をホワイトチョコで包んだお菓子。お煎餅と一緒に並べられた。
「せーちゃん、何淹れよう?」
「おっコバッキー気が利くねぇ~。そんじゃ、コーヒー宜しく」
槙村さんのコーヒーを淹れている間、僕は槙村さんと神保さんが話している様子を眺めた。
普段通りの二人。
なのに、槙村さんが神保さんを好きっていう情報があるせいで、なんだかよこしまな目で見てしまう…
すると、槙村さんと目が合って、少しだけ睨まれた。
余計な口を挟むなよと…言われているようだった。
槙村さんの視線に萎縮していると、
「ねぇ神さん聞いてよ~。
コバッキーたらね、今好きなコといいカンジなんだよ~。
今日さ、うちの書店でバッタリ会ってね…」
「ちょっとせーちゃん! いらん事言わないで!」
自分の事は棚に上げて、僕の秘密はあっさり暴露しようとする槙村さん、ほんと勘弁してほしい(泣)
「ほーっ? その辺詳しく聞きたいね(笑)」
神保さんはバターサンドを頬張りながら、目尻にしわを寄せて笑った。
…