ボーダーライン〈後編〉
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早く逢いたいという僕の願いが通じたのか、後期が始まってすぐに僕は紡木さんに逢えた。
それは偶然で、僕がバイトの運搬で書店を訪れた時、会計カウンターに紡木さんがいたのだ。
実にひと月以上振りの彼女の姿に、目眩を起こしかけた。
「あっ…紡木さん?」
僕の声に紡木さんが振り返る。
「えっ、わっ? ノブくん?
眼鏡かけてない! あっちがう? 眼鏡変えたの??
すごい、素顔に馴染んでて…いいね!」
表情をクルクル変える紡木さんが、やっぱり好きだと思った。
「ありがと…(照)
紡木さんこそ、どうしたのこんな所で?」
「後期から使う教科書を買いに。
あっそうだノブくん、図書館で借りた本の事、覚えてる?
この本屋に置いてあったの。私、ビックリしちゃって(笑) 一緒に買っちゃった」
「あーそうそう。置いてあったよ。言ってなかったっけ?」
「えーっノブくん、知ってたの? 早く言ってよ~」
紡木さんとの会話にウキウキしていると、視界の端に本にカバーを掛けている槙村さんが入って、その作業をしながら一目だけ僕を見た。
無表情の槙村さんがこわっ。っていうか、この子が紡木さんだってこれでバレたはず。何か余計な口を挟むんじゃないかとヒヤヒヤする。
「あっ…そうだ、紡木さん、俺、休みの間に免許取ったよ」
これを聞いて槙村さん、今度は顔を上げた。目を丸くして僕を見る。頼むから何にも言わないで(苦笑)
「えっほんと!? すごーい! 海で宣言した通りになったね。
サークルのみんなが知ったら、いっぱい運転させられちゃうね」
カバーを掛け終えた本と教科書を袋に入れたのを、槙村さんは「お待たせしました」と言いながらカウンター台に滑らせた。
紡木さんはそれを受け取ると、僕に向き直って、
「ノブくん、今日は私司書の仕事入ってないの。また今度、図書館かサークルでね」
と言って自動ドアをくぐっていった。
そんな彼女に向かって、折り目正しく「ありがとうございましたー」と頭を下げた槙村さん。
「あれが紡木チャンかぁ。
へー。
ふぅん。
聞いてた話より大分仲良さげじゃん?
やるねーコバッキー。
いっひっひー(笑)」
頭を上げたと同時に、いつものテンションの怪しい笑いをした。
紡木さんの前でそれを見せないでいてくれて、助かった。
…