ボーダーライン〈前編〉

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 料理が全部出切ってからも、色々お酒を飲みながら話をしていた。

 ら、突然、さっきまでケラケラと笑っていた槙村さんが黙り込んだ。

 びっくりして槙村さんの顔を見る。目が…据わってる。

「せーちゃん?」

「うん」

「もしかして…かなり酔っぱらってる?」

「うん」

「喋るのしんどい?」

「うん」

「じゃあ…そろそろ帰る?」

「うん」

 すごい、槙村さんが【うん】しか言わない(笑)

 同じだけの量を僕も飲んだけど、特に変化はない。やっぱりお酒には強いらしい。

 まだ2時間経ってなかったけれど、すっかりおとなしくなった槙村さんを連れて店を出た。



 顔には出てないけど、足元が若干フラフラしてたので、お互い違う方向の電車だったけど、僕はホームまで一緒についていった。

「大丈夫だよ、ちゃんと帰れるって。心配性だなぁ」

「本当に? まぁ、ここまで来ちゃったから電車乗るところまで見届ける」

「っそ」

 うつらうつらしながら槙村さんは近くのベンチに座った。僕もその隣に腰を降ろす。

 時間はまだ21時にもなってなかったけど、ホームには僕達以外には誰もいなくてしんとしていた。

 夏の夜の冷たい空気が頬を撫でる。

 僕達はずっと黙ったままだったが、やがて、槙村さんがうにゃうにゃとはっきりしない声で言った。

「あのさあ~」

「ん?」

「あのさあ~」

 槙村さんが繰り返すのが可笑しくて、つい笑いを含む。

「(笑) うん、ナニ?」

「好きなんだよね」

「……」

 妙な間が流れる。

「…??!」

 直後、僕の頭がガツンと衝撃を受けたような錯覚に陥った。

 …えぇと…そ、それは一体?

 こ、告白!?

 槙村さんが僕に?

 イヤイヤイヤ! 絶対、何かの言葉が抜け落ちてる。

「…誰が?
 …ナニが?」

 恐る恐る聞く僕に、首をもたげて目を伏せたまま、槙村さんは言った。





「だから。





 好きなんだってば。





 神さんのこと」










ボーダーライン〈後編〉に続く






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