ボーダーライン〈前編〉
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「ほーっ。紡木チャン。ほーっ。
その可愛い紡木チャンに、すっかり骨抜きにされてるワケなのね~。
このこの。コバッキーの変身劇はそういった理由か(笑)
ふはは~。ムズムズする~。
後期が始まったら、図書館まで見に行こうかなぁ~」
「わっ…せーちゃん、もうカンベンして」
運ばれてくるコース料理に手を付けながら、僕は紡木さんとの経緯を洗いざらい、槙村さんに話すはめになったものの、どういうわけか槙村さんにはスラスラと話せた。
「でもねえ、彼女、好きな人がいるっぽい…」
飲み放題のお酒の力も手伝って、こんな事も洩らしてしまった。
「へー。ダレダレ」
「サークルの部長。松堂さんっていうの」
「松堂?」
槙村さんの箸が止まる。
「ん? 知ってるの? そういや、同じ3年だもんね」
「あー、知ってるっていうか。学部違うし話したことも無い。
けどねえ…んー…いい話、聞かないから。友達情報だけどね」
「そう、なんだ」
海での松堂さんを知っている、多分、スキモノなんだと思う。紡木さんはそれを…知らないっぽい。
「まぁまぁまぁ。
コバッキーの話を聞く限りなら、コバッキーにもチャンスありそうじゃん?
個人メッセージのやりとりに、プレゼント交換までしちゃってさ。
うひひひ。がんばんなよ~」
怪しさ満載の笑いを浮かべて、槙村さんはバシバシと僕の肩を叩いた。
「いたたた…
そういうせーちゃんこそ、何か浮いた話無いの?」
僕だけこっ恥ずかしい話晒されてたまるか、槙村さんからも何か聞き出さないと割に合わない。
「ん?
あーそうそう、あたしさぁ、実家帰ってる間にさぁ…ふっふっふっ」
「えーナニナニ?」
「じゃーん! 免許取りましたぁ」
「はっ?」
「いいでしょー。地元で合宿行ったんだよ。就活始まる前にどうしても取っておきたかったからね。
今度ドライブ連れてってあげようか? あ、車がなかった(笑)」
運転免許をヒラヒラさせて上機嫌な槙村さん。
なんか…話をすり替えられた気がしないでもないけど…
僕も免許を取りに行きたいと思ってたから、そのまま合宿の話を詳しく聞いて、それからまた別の話になって…
恋沙汰の話はもう出なかった。
…