ボーダーライン〈前編〉
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17時過ぎに図書館を出て書店の方に戻ると、ちょうど槙村さんが店じまいを終えて出てきた所だった。
そのまま僕達は駅前まで出て、いつも利用している改札とは反対側の繁華街をうろついた。
「神さん、どこで奢ってくれるつもりだったのかなぁ。何か言ってなかった?」
「何にも。せーちゃんこそ、神保さんとそういう話しなかったの? 丸投げし過ぎでしょ、もう」
「(笑)(笑)。
あ、コバッキー。ここどう? バースデーコースなんてのがある。お、2時間飲み放題!」
槙村さんがとある地下のダイニングバーのイーゼルを見つけて、僕に手招きをした。
「ここ? うーん…」
「うん? 神さんの餞別、足りない? 大丈夫だよ、あたし出すから」
「いや、十分に足りるけど…」
「じゃあなんだ?」
「…地下に降りてく飲み屋って恐くない? ぼったくられそう…」
「偏見! どんな想像してんだ(笑) ほら行くよ」
「わっ、ちょっ、Tシャツ伸びるからやめてっ」
槙村さんは僕のTシャツの裾を引っ張って、ズンズンと階段を降りていった。
降りた先の小洒落た扉を開けると、何組か待っていたけれど、回転は早くて割りとすぐに呼ばれた。
案内された席は…カップルシート。
二人掛けの柔らかいソファー、壁の切り抜きにアクアリウムが飾られていて、それに向かう形でテーブルが置かれていた。
両脇にパーテーション、軽く個室状態。
あの、僕らカップルじゃないんですけど。と言いたかったが、注文を取って「どうぞごゆっくり」と爽やかな笑顔を残してスタッフさんは行ってしまった。
ソファーに座ると、お互いの肩が触れるほどの狭さにビックリする。
「ちょっとコバッキー、食べづらくなるからもっと間空けて」
わざとらしく槙村さんがしっしっと手を振る。
あのねぇ、俺だってねぇ、彼女でもない人と密着するのなんてカンベン願いたい。
これが紡木さんだったら。
「さてとぉ。どこから話して貰うかなぁ。
サークルで好きな女でも出来たか?
サークル入ったって言った辺りから、ちょっとヘンだったもんなぁ(笑)」
槙村さんの切り込み発言に、慌てて不埒な妄想を掻き消した。
僕が瞬時に頬を赤らめるのを見逃さず、槙村さんはニシシと笑いながら、最初に頼んだカクテルに口を付けた。
…