ボーダーライン〈前編〉
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「えええー?
神さん来ないのー?
なんでよー!」
はぁ、やっぱりね。
15時までの勤務を終えて、書店に行って槙村さんに神保さん欠席の旨を伝えたところ、そんな反応が返ってきた。
「で、あたしらで行ってこいってか」
はぁー、と溜め息をつく槙村さん。
別に、無理して付き合ってくれなくていいけど。僕だって、ここじゃない僕と槙村さんを想像出来ないや。かなり打ち解けたとはいえ、所詮僕らはここだけの関係。
誕生日だけど、今回はお流れになっても構わない。神保さんからの餞別は返そう、と思った。
ところが、槙村さんは急にニヤッとしだした。
「…フッフッフ。
こりゃー、コバッキーに根掘り葉掘り聞くチャンス?
会わなかった間のコト、洗いざらい吐いてもらおっかねー?
ウシシ、いい酒のつまみになりそーだ(笑)」
げっ。そっち行った!?
あからさまに嫌な顔の僕と、鼻歌なんかしちゃってる槙村さん、こんなにも両極端なものの同席ってあるのか。
「あんまりいじめないでよ…」
ボソリというと、槙村さんはフッと笑って、
「わかったわかった。
ハッピーバースデーですもんね。
ってなわけで、ほい、おめでとさん」
僕の手首をぐいっと引っ張って、手の平にぽんと筆箱ほどの大きさの箱を乗せた。
右上に【for you】のリボン付きシール。
まさか槙村さんまで、プレゼントを用意してくれたとは。
「あ、ありがと、ございます…」
「ハッハッハッ。なんだその反応は(笑) ま、よかったら使いなよ。
あたし今日17時までなんだ。どっかで時間潰しててよ」
そう言われて、僕は槙村さんのプレゼントを握りながら、19時まで開いている図書館に向かった。
窓沿いのカウンター席に腰を下ろして、そこで神保さんと槙村さんに貰ったプレゼントを開けてみた。
「う、わぁ…」
神保さんからは、渋くてお洒落なタンブラー。
槙村さんからは、重厚なブラックの万年筆。
どちらも、【Nobuki.K】と名入れがなされていた。
20歳を意識して選んでくれたのがすごく伝わって、なんだかくすぐったかった。
…