ボーダーライン〈前編〉

48/52ページ

前へ 次へ


 そこからまた幾日が経って、僕の誕生日がやってきた。8月23日。

 紡木さんの誕生日の時は祝言フィーバーだったのに、この日は全く通知が来なかった。

 が、個人メッセージで紡木さんから、

【お誕生日おめでとう!
 ハタチ初日、楽しんでますか?
 ノブくんにとって素敵な1年になりますように(о´∀`о)】

 これだけで僕には十分だった。

 行きの電車の中でニヤニヤ、もちろん口元を隠して。紡木さんに返事を打つ。

【ありがとう( ・∇・)
 今日は普通にバイトして、その後飲みに連れてって貰います。
 メガネケース、使わせて貰ってるよ( •̀∀•́ )b】

 するとすぐに通知が来て、乾杯といってらっしゃいのスタンプと一緒に、【私も今、読んでる本にしおり使ってるよ】と送られた。



 図書センターに着くと、開口一番に神保さんがこう切り出した。

「木庭くんスマン!
 今日、どうしても外せない用事が入ってしまって…お昼になる前にここを出なくちゃならないんだ。
 午後は引き継いでくれる社員が来るから、その後の作業の詳細は彼から聞いてくれ。
 で、飲みにいく約束、ごめんな。
 でもナシにするのはもったいないから、俺は行けないけど、せーちゃんとふたりで行っておいで」

「へっ」

「飲み代はホラ、これで賄って。美味いもん沢山食べな。
 それから…ほい。誕生日おめでとう」

 今日の多大な予定変更に目を丸くする僕の手に、神保さんは現金と綺麗にラッピングされた正方形の箱を乗せた。

「え、あ、ありがとうございますっ」

 慌てて頭を下げる僕。

 あーいいからいいから、楽しんでおいでと、忙しそうに神保さんは台車を押して行ってしまった。

 頭を上げた時、なんかとんでもない事になってやしないか? と、一抹の不安がよぎった。

 せーちゃんと飲みに行くの?

 ふたりで?

 女の子とふたりで飲むの初めてなんだけど?

 ていうか、絶対せーちゃん、神保さんが来ないって知ったらギャースカ言うよね?





48/52ページ
スキ