ボーダーライン〈前編〉

44/52ページ

前へ 次へ


 皆が花火に夢中になっている間、トイレに立ったついでに荷物置き場に寄って、15cmほどの長さの、リボンのかかった箱をバッグから取り出した。

 紡木さんへのプレゼント。どうしよう? いつ渡そう? 花火が終わり次第解散になる。車に乗る時にさりげなく渡そうか…

「ノブくん?」

「わぁっ?!」

 後ろから声を掛けられてビックリした。

 振り向くと、紡木さんが自分のバッグを抱えて、僕の反応に目を丸くしていた。

 咄嗟にプレゼントを持つ手を背中に隠す。

「やだ、どうしてそんなに驚くの(笑)」

「そ、そりゃそうでしょ、ビックリするよ。あー、心臓止まるかと思った」

「ふふ…ねぇノブくん、例のアレ…今いい?」

「え、あ、今? うん、モチロン」

「皆がいる前じゃ恥ずかしいもんね…今の内に、こっそりとね?(笑)」

 紡木さんの方から交換開始を申し出てくれた。

 紡木さんのバッグの中から、エッフェル塔柄の茶色い包み紙の細長い箱が出てきた。

「ハイ…少し早いけど、お誕生日おめでとう」

 仄暗い闇に紡木さんの笑顔が浮かぶ。

「ありがと…ね、開けていい?」

「ウン…あ、でも使わないかもしれないよ?」

「えぇ? 何だろ…」

 テープを丁寧に剥がして、包装紙を取っ払った。

 ボタンで止めるタイプの、レザー調の眼鏡ケースだった。

「わぁ…オシャレだね。ありがと。使わせて貰うね」

「ほんと? でもノブくん、コンタクトに変えるような事言ってたから、用ナシになるかなぁと思ったんだけど…」

 あ。もしかしてあの時眼鏡ナシの僕を見てどもったのは、プレゼントが無駄になると思ったからかな。

「ううん、コンタクトはまぁ、まだ考えてないから」

 僕の答えを聞いてほっと息をつく紡木さんに、今度は僕からの贈り物。

「じゃあ次は僕…改めて、誕生日おめでとう」

「ありがとう。私も、開けていい?」

「ウン…使って貰えたら、嬉しいけど」

 リボンをほどいて箱のフタに手を掛ける紡木さんを、僕はドキドキしながら見つめた。





44/52ページ
スキ