ボーダーライン〈前編〉
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ケーキ屋に着いてショーケースを確認すると、紡木さんリクエストのケーキがまだあった。
僕の他に同様にケーキを決めかねているお客がいたので、買われたくない一心で「すみません」と先に店員さんに声を掛けた。
「えっと、このホールケーキと…」
と言った時、その決めかねていたお客が溜め息をこぼした。
ちょっぴり良心が痛んだけれど、皆が待ってるんだからと正当化して、もうひとつ、フルーツとジェルが沢山乗ったさっぱり系のホールケーキを選んだ。
「お誕生日ですか? プレートはどうなさいましょう」
「あっお願いします」
店員さんはプレートの一覧と、名入れの為にメモ紙とボールペンを僕に差し出した。
イチオシケーキの方には【ツムちゃんお誕生日おめでとう】。
フルーツケーキの方には、もう1個は僕の分と言ったけど、自分で自分の名前をお願いするのが妙に恥ずかしくて、【happy birthday】とシンプルに書かれたプレートを選んだ。
「ありがとうございましたぁ」
それぞれ丁寧に入れられたケーキの箱を2つ両手に持って、うっかり走ったりしないように気を付けながら、ゆっくり歩いた。
太陽が大分水平線に近づいていて、遠くの境目をキラキラとオレンジに照りつけていた。
バーベキューの準備で動き回る皆が小さく見えて、逆光だから黒い影になっていた。
でも、その中で振り返った、
「あっノブくん、おかえりなさぁい」
紡木さんの笑顔だけははっきり見えた。
──何でだろうという疑問と、
──そんなの分かり切ってるだろという確信、
後者のが圧倒的だった。
…