ボーダーライン〈前編〉

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「あっ? ノブくん? 眼鏡外してる!
 あっ、海だから当たり前だよね」

 紡木さんが僕を見るなり、びっくりしたり合点がいったり、百面相を披露してくれた。

「ノブはコンタクトにした方がいいって。
 ツムちゃんもそう思うでしょ?」

「えっ、あ…
 ウン、眼鏡ないノブくんは、なんか爽やかだね」

 松堂さんに振られて、紡木さんはそんな風に答えた。

 どもる感じだったのは気のせいだろうか。

 でも、近い内にコンタクトに代えようかな…と僕はなんて単純。

 あっそういえば、眼鏡をまだ松堂さんに返して貰ってない。

「あの、松堂さん、メガ…」

「よーっし、そんじゃあバーベキュー始めるかー!」

「おー!」

 松堂さんの号令で皆がテキパキと動き出した。

 かまどを作り火を起こすグループ、肉や野菜を切るグループ、テーブルやイスをセッティングするグループ、出遅れてどこを手伝えばいいか迷っていると、

「あっやべぇ、誕生日ケーキ! すっかり忘れてた!」

 松堂さんが叫んで、なにやってんのよ部長! とメンバー達は大ブーイング。

「すぐ近くにケーキ屋さんあったよ、来る時に見かけた」

 と誰かが言ったので、

「あ…じゃあ、僕行ってきていいですか」

「え、まじ? 一応お前のお祝いでもあるのに…まっいーか(笑)
 んじゃ頼むわ、ホール2つな。ツムちゃんの分とお前の分」

 自分から名乗り出て、松堂さんから財布を預かった。

 ケーキ屋の場所をスマホで調べると、確かに歩いて行ける距離に一軒あった。

「紡木さん? ケーキ、どれがいい?」

 自分の嗜好で買うのもなんなので、商品一覧のページを紡木さんに見せて意見を求めた。

「えっとね…
 あっ、これカワイイ。美味しそう」

 紡木さんはピンクとホワイトのグラデーションが絶妙なホールケーキを指した。

「でも人気商品だって。売り切れてるかもね。そしたらノブくんのチョイスに任せるよ」

「えーっ、責任重大じゃん(笑)」

「ふふふっ(笑)」

 紡木さんの笑顔に見送られ、僕は意気揚々とケーキ屋に向かった。

 その途中で、紡木さんとのプレゼント交換をどのタイミングですればいいのか、それこそ今日最大の難関である事を、今やっとその事に気付いた。

 皆に気付かれないようにこっそり2人で抜け出す…

 そんな事が僕なんかに出来るんだろうか?

 手にじっとり、汗をかいた。





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