ボーダーライン〈前編〉

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「僕のツレが…何かお世話になりましたかね?」

 長身の彼は、声こそ穏やかだったけれど、怒気を無理矢理押し込めた笑顔はめちゃくちゃ迫力があった。

「あっハジメちゃん」

 ウルフショートの小さい彼女がそう言った後、愛想笑いしか出来ない僕達の前に割って入った。

「あのね、ホノちゃんがイヤリング片方落としちゃって。
 探してたら、この人達が手伝ってくれたの」

「ごめんなさい、ハジメさん。ちゃんと付けられてなくて…
 でも、見つかりました。彼らが見つけてくれました」

 シュシュの彼女も横に来て、見つけたイヤリングを手に乗せて見せた。

「ん、そっか…
 一緒に探してくれてありがとうございました」

 長身の彼はふっと微笑んで、僕達にペコリと頭を下げた。

「あ、いえ、見つかってよかったです。
 じゃあ僕達、仲間が待ってるのでこれで…」

「は? おい、ちょ…」

 僕も同じように頭を下げて、この状況下でまだそこにいたがる松堂さんを引っ張ってその場を離れた。

「おいおい、ノブぅ。いくじなしめ、オトコが来たくらいで。
 …まぁ、あのおにいさん、ちょっと恐かったけど。
 あのちまいコの旦那なんだろうけどさ、もう1人はフリーってことじゃんか…」

 何を見当違いな事を…この人はよくよく周りを見ないな、と思いながら、僕は彼らを振り返った。

 組み合わせは多分、シュシュの彼女と長身の彼。二人の胸には、カラー違いのお揃いのネックレスが揺れていた。

 そして小柄の彼女は…



【ほら、オマエのダンナも気が気じゃないとさ。つっかえてばっかりだぞ?】

【ありゃりゃ。
 あ、でもね、ホノちゃんがね、この人は人妻だからダメって言ってくれたよ。
 いやぁ、キュンときたねぇ】

【ちょっ、イッサちゃんてば。
 だって、全然警戒しないし、ハジメさんもタツミさんもいないんじゃ…
 私しかいないじゃないですか】

【ふはは。よくやった。
 ほら、タツミくんもうすぐ終わるし、セーリングの準備も出来てるんだから、早く来い】

【はぁい】



 海の家が並ぶ一角に仮設置されたラジオの野外ブースに向かって、手を振りながら歩いていった。

 距離あるし、目も悪いからハッキリとは分からないけれど、DJの人が手を高く挙げてひと振りするのが、ボンヤリ見えた。





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